研究課題
鎌状赤血球症は、赤血球が鎌状に変形し、血管内溶血を起こす遺伝病である。本研究では、生体防御に働く転写因子Nrf2を活性化することによって鎌状赤血球症の症状が改善するかを、モデルマウスを用いて検証することを目的としている。27年度までに、遺伝的または薬剤誘導的に全身でNrf2を活性化した鎌状赤血球症モデルマウスを解析し、Nrf2の活性化によって炎症と組織障害が軽減することを明らかにしている。そこで28年度は、Nrf2の活性化によって鎌状赤血球症の症状を改善する責任細胞の同定を目指した解析を行った。鎌状赤血球症は、血管内溶血が主な原因となっておこる疾患であるため、そのストレスに最初に曝される血管内皮細胞に着目した。血管内皮細胞特異的にNrf2を活性化させた鎌状赤血球症モデルマウスでは、単純な鎌状赤血球症モデルマウスよりも組織障害および炎症が改善しており、血管内皮細胞におけるNrf2の活性化が鎌状赤血球症の症状改善に重要であることが明らかとなった。マウスから採取した血管内皮細胞を用いた網羅的遺伝子解析(RNA-seq解析)を行ったところ、Nrf2の活性化によって抗酸化・ストレス応答に関わる遺伝子群および血管拡張に働く遺伝子群の発現が上昇しており、これらの遺伝子が症状改善に働いていることが示唆された。さらに、全身でNrf2を活性化した鎌状赤血球症マウスでは炎症の改善が観察されていることから、炎症細胞(好中球、マクロファージ)に着目した検討も行った。炎症細胞特異的にNrf2を活性化させた鎌状赤血球症モデルマウスを作製し、解析を行ったところ、単純な鎌状赤血球症モデルマウスよりも組織障害および炎症が改善していた。このことから、炎症細胞におけるNrf2活性化も全身の症状改善に貢献していることが明らかとなった。
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