研究課題
近年の研究成果は、造血器腫瘍をジェネティック変異とエピジェネティック変異が複数蓄積した病態として理解する重要性を示している。骨髄異形成症候群(MDS)はクローナルな造血幹細胞による悪性腫瘍であり、造血不全状態を呈して、一部が急性骨髄性白血病(MDS/AML)へと移行する。近年の詳細なゲノムワイドの遺伝子解析によって、TET2、DNMT3A、EZH2、ASXL1などのエピジェネティック制御遺伝子の変異がMDSで次々と同定された。このうち、EZH2機能喪失型変異は単独でMDSの予後不良因子とされる。EZH2は7番染色体長腕(7q36)にあり、-7/7q-染色体異常あるいはEZH2の機能喪失型変異を有する骨髄系腫瘍ではH3K27me3レベルが低下している。実際、Ezh2ノックアウトマウスの解析では、PRC2複合体の標的遺伝子の発現が脱抑制しており、Ezh2欠損単独で一部のマウスはMDSを発症する。さらに、Ezh2/Tet2ダブルノックアウトマウスの解析では、Ezh2を欠損させることでTet2欠損によるMDSおよびMDS/MPNの発症が著しく促進された。この際、MDS造血細胞におけるH3K27me3ヒストン修飾は、多くのポリコーム標的遺伝子群で消失・減少する。これら標的遺伝子にはMDSにおける“がん遺伝子”候補が数多く含まれており、それらの発現の活性化は病態進展に関与するものと考えられる。申請者はEzh2欠損造血幹細胞にRUNX1S291fs変異体を発現させることで、MDSを発症する新規MDSモデルマウスを確立した。本研究課題では、このEzh2欠損MDSマウスを用いてMDS発症過程の病態基盤の解明をエピゲノム解析結果をもとに行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、このEzh2欠損MDSマウスを用いてMDS発症過程の病態基盤を解明して、その成果を学術論文(Sashida G, et al. Nature Commun 2014)としても発表した。
本研究では骨髄微小環境におけるMDS幹細胞や共存する正常造血幹細胞との相互関係がどのようにMDSの病態に関与するかを検証していく。MDS幹細胞の遺伝子発現解析から絞り込まれた遺伝子群の役割を、MDSクローンへの増殖優位性獲得の観点から解明する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件)
Leuk Lymphoma
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doi: 10.1038/ncomms5177
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