トロンボモジュリン(TM)は血管内皮細胞上に発現して、プロテインCを活性化プロテインCに変換して、血液凝固因子VaとVIIIaを阻害することで、生体が過凝固に陥ることを防ぐ糖たんぱく質である。以前我々は、TMには血管内皮細胞を保護する新規な作用があることを報告した。そしてその作用は、細胞増殖刺激シグナルERKを介して抗アポトーシス蛋白Mcl-1を発現上昇することで発揮されることを報告した。当該年度の研究で、その活性部位が40アミノ酸からなる、上皮細胞増殖因子様領域の5番目(TME5)に局在することを突き止めた。臍帯静脈内皮細胞を用いた試験管内の実験で、TME5はERKを活性化してMcl-1の発現を増加させることを確認した。TME5をさらに断片化すると、これらの作用は減弱することから、TME5が内皮保護作用を発揮する最小単位と考えられた。また、カルシニューリン阻害剤による血管内皮細胞障害マウスモデルにおいて、合成TME5はマウスの腎と肝の血管内皮細胞を保護し、血管内皮細胞同士の接着の破たんに基づく毛細管漏出も防御可能であることを証明した。さらに、TME5は正常な血管内皮細胞の増殖を刺激し、血管新生を促進する作用を有することも明らかにした。遺伝子組換えTM(rTM)は2008年から播種性血管内凝固症候群(DIC)に対する治療薬として臨床の場で使用されているが、患者に投与すると、出血の副作用が約5%の頻度で発症することが問題となっている。重要なことに、TME5には全く抗凝固作用が存在しないため、今後血管内皮細胞保護薬として臨床開発する際に出血の副作用を懸念する必要がない安全な薬剤となりうる。
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