研究課題
目的:昨年度までに、トロンボモジュリンの5番目の上皮細胞増殖因子様領域(TME5)には、血管内皮細胞増殖刺激作用や、カルシニューリン阻害剤やサイトカインによる血管内皮細胞傷害から血管内皮細胞を保護する作用が存在することを培養細胞を用いた実験で示してきた。本年度はTME5の血管内皮細胞保護作用を実験動物モデルを用いて検証することを目的とした。また、TME5が血管内皮細胞保護シグナルを細胞内に伝達する機序の解明を試みた。結果:植物由来のアルカロイドであるモノクロタリンをICRマウスに腹腔内投与すると、2日後に腹水貯留、AST、ALTなどの肝酵素の上昇に加え、病理学的にも中心静脈近傍領域で出血性壊死を認め、肝類洞閉塞症候群(SOS)が惹起できていることが確認できた。TME5をこのSOSモデルマウスに投与すると、腹水や肝酵素の上昇が緩和され、TME5のSOS予防効果が確認できた。また、モノクロタリンを投与後マウスの肝臓からmRNAを抽出し、real-time RT-PCRを行うと、血管内皮細胞傷害マーカーであるE-selectinやICAM-1の発現上昇が見らるが、モノクロタリンと一緒にTME5の投与を受けたマウスの肝臓ではこれら障害マーカーの上昇は有意に抑制されており、TME5が内皮細胞傷害を緩和したことが伺われた。さらに、TME5と血管内皮細胞の膜蛋白を一晩混合した後免疫沈降を行いTME5が血管内皮細胞膜上で結合する受容体蛋白質の同定を試みた。その結果、TME5はケモカイン受容体Xと結合後、細胞内に生存刺激シグナルを伝達して細胞保護作用を発揮することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
血管内皮細胞傷害マウスモデルの作成に成功し、このモデルマウスにTME5を投与して、血管内皮細胞傷害保護作用を証明することができた。また、TME5の受容体の同定にも成功した。
TME5は40アミノ酸からなるが、S-S結合を介してA,B,Cの三つのループから形成される。それぞれを合成し、血管内皮培養細胞を用いた試験管内の実験を行い、血管内皮細胞保護活性のある最小単の取得を目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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