研究課題
研究代表者らは、今年度までの研究で、東京大学医科学研究所幹細胞シグナル制御分野との共同研究を通じて、転写抑制因子hairy enhancer of split-1(Hes1)とbcr-ablの両遺伝子を導入した造血前駆・幹細胞を骨髄移植したマウスによる発症型の白血病・リンパ腫、慢性骨髄性白血病の急性転化型のモデルを確立した。これらのモデルマウスで、白血病細胞が増殖する際に、血中のマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)が活性化され、さらにこれらのMMP-9が白血病細胞から供給されること、またこれを介してstem cell factor (SCF, Kit-ligand)の血中濃度の上昇が認められることを明らかにした。代表者らは、MMP-9の活性化が、basic fibroblast growth factor (bFGF)やCXCL12等のアンジオクライン分子の分泌機構を制御していることを明らかにしている。また代表者らは、白血病・リンパ腫に対し、造血幹細胞移植を施行した急性移植片対宿主病(GVHD)患者の血液中において、有意なMMPの活性化と、これに伴って、一部のアンジオクライン分子を含むtumor necrosis factor-α (TNF-α)、monocyte chemotactic protein -1(MCP-1)等の炎症性サイトカイン、ケモカインの血中濃度の上昇が誘導されることを明らかにした。加えて、代表者らは、急性GVHD、そして敗血症、炎症性腸疾患等の難治性・免疫性疾患モデルにおいて、神戸学院大学と共同開発中の線維素溶解系(線溶系)阻害剤が各種MMPの活性と、疾患病勢を有意に抑制することを明らかにした。これらの研究成果は、いずれも疾患病態形成における各種プロテアーゼとアンジオクライン分子群との相互作用の存在を示唆したものと言えよう。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の達成度としては、今年度までの研究で、白血病・リンパ腫の発症型モデルとして、研究計画当初予定していたTet on/offモデルではないものの、いわゆる腫瘍細胞移植モデルと異なる、白血病関連遺伝子導入細胞移植により白血病病態により則したモデルを確立できたこと、またこのモデルを通じて、代表者らが、本研究の目的としている白血病・リンパ腫病態におけるアンジオクライン分子の機能解析の鍵となる、各種プロテアーゼ活性との相互作用の存在を示唆し、この時点で論文報告出来たことは、当初の計画以上に早い進展であった。また、白血病・リンパ腫治療において、重要な役割を担っている造血幹細胞移植上、重要な副作用であるGVHDの臨床検体とマウスモデルを使用した実験を通じて、その病態形成過程におけるアンジオクライン分子動態と各種プロテアーゼ活性との相互作用、さらにこれを基礎とした新規治療法、そして抗がん剤との新しい併用療法の可能性を論文報告出来たことは、本研究の究極的目標である、白血病・リンパ腫、またこれに関連する各種血液疾患の新規分子療法開発の基盤形成について、資する部分の大きい一年であったと捉えている。加えて、GVHDでの研究成果を基礎として、敗血症や炎症性腸疾患等の免疫・炎症性難治疾患のマウスモデルにおいても、これらの病態形成過程におけるアンジオクライン分子動態と各種プロテアーゼ活性との相互作用、さらにこれを基礎とした新規治療法を論文報告出来たこと、またプレスリリースを通じて、こうした研究成果が発表されたことにより、計画していた以上に、広くかつ多くの医療分野で、本研究の意義が理解されつつあることから、今年度の達成度は高く評価した。
来年度以降は、白血病・リンパ腫の発症型モデルを使用し、白血病・リンパ腫におけるアンジオクライン分子群、及びこれらの血管内皮細胞をはじめとする供給細胞の活性・動態を含め、計画にありながら研究が進んでいない、アンジオクライン分子とAkt/mTOR経路、白血病・リンパ腫の微小環境構成分子との相互作用を含めたアンジオクライン分子の分泌産生機構の解明を主眼に据えた研究を進めていく。また当初予定していたTet on/offあるいは他の発症型の白血病・リンパ腫モデルについては、研究代表者の異動もあって、入手に苦労したが、東京大学医科学研究所との共同研究により、今年度までに確立した発症型モデルの使用等、当面可能な範囲から、生体内での白血病・リンパ腫におけるアンジオクライン分子群動態の網羅的解析を試みながら、白血病・リンパ腫細胞と微小環境構成細胞との相互作用等、生体内外の実験系でその機能解明をおおむね研究計画に沿って進めていく予定である。また、今年度までにその存在が示唆されてきた、白血病・リンパ腫、GVHD等をはじめとする血液疾患、あるいは敗血症や炎症性腸疾患等の免疫・炎症性難治疾患群におけるMMPや線溶系因子等の各種プロテアーゼ活性とアンジオクライン分子群、またこれらの供給細胞との相互作用の詳細解明、さらにこれらを基礎として、神戸学院大学との間で、今年度まで共同開発を進めてきた線溶阻害剤をはじめとする血液疾患、免疫・炎症性疾患に対する新しい分子療法開発の基礎研究についても、既に順天堂大学ともmaterial transfer agreementを締結したこともあって、来年度からも粘り強く継続し、トランスレーショナルリサーチとしての出口も意識しつつ展開し、これを推進していくこととする。
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http://stemcell-u-tokyo.org/sc-re/