研究課題
平成27年度までの研究で、研究者らは、アンジオクライン分子及びその受容体の細胞外ドメイン分泌(プロセシング)を制御するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)あるいは血液線維素溶解系(線溶系)に代表されるセリンプロテアーゼ等の各種プロテアーゼの活性が、白血病・リンパ腫の疾患モデルにおいて、病勢に応じて増減すること、そして分泌されるアンジオクライン因子により、腫瘍細胞、及び炎症性細胞の動態が制御されることを明らかにした。また研究者らは、線溶系亢進によるプラスミンの生成が、アンジオクライン分子の産生、分泌制御を介して、組織幹細胞、そして炎症性細胞を含む造血系細胞の分化・増殖、末梢組織中への動員を調節していること、加えてこれを基礎とした炎症性腸疾患、移植片対宿主病(GVHD)、あるいは敗血症をはじめとする炎症性疾患の新しい病態制御機構を明らかにした。さらに研究者らは、神戸学院大学との共同研究により開発された新規のプラスミン阻害剤、また東北大学との共同研究により開発されたプラスミノーゲン活性化抑制因子(PAI-1)阻害剤や遺伝子組み換え型のプラスミノーゲン活性化因子が、各種細胞の動態を制御し、細胞分化、組織再生に寄与することを学会発表した。
2: おおむね順調に進展している
今年度迄の達成度としては、白血病・リンパ腫の発症型モデルとして、白血病関連遺伝子導入細胞移植により白血病病態により則したモデルを確立できたこと、またこのモデルを通じて、代表者らが、本研究の目的としている白血病・リンパ腫病態におけるアンジオクライン分子動態が、マトリックスメタロプロテアーゼ、あるいは血液線維素溶解系によって制御されていることを明らかとし、この時点で論文報告出来たことから、一定の研究成果を挙げていると判断している。また今年度の研究で、線溶系の活性化を起点として、造血微小環境を構築する血管内皮系細胞と間葉系幹細胞との間で、アンジオクライン分子を介した相互作用が惹起され、白血病細胞動態が制御されることを示唆した点も研究課題には寄与があった。これらの研究については、現在複数の論文を投稿中であり、追加実験を進めていること、またアンジオクライン分子の一つであるEpidermal Growth Factor like domain 7(Egfl-7)が造血幹細胞の増殖に関与していることを基礎実験で確認しつつあり、白血病・リンパ腫での役割も精査中であること等も今後、さらなる研究課題の達成に貢献が期待出来る点である。加えて臨床面においては、白血病・リンパ腫に対するPAI-1阻害剤による造血組織再生促進療法が、東海大学において臨床試験に入っており、研究者らは、これについてもアドバイザー的役割を依頼された。こうした臨床治験を通じて、本研究の内容が、臨床病態で再確認されることも期待される。
来年度以降は、白血病・リンパ腫におけるアンジオクライン分子群、及びこれらの血管内皮細胞をはじめとする供給細胞の活性・動態を含め、計画にありながら、代表者の異動の関係もあって研究が進んでいなかった、動物実験と臨床検体との両面からアンジオクライン分子とAkt/mTOR経路、白血病・リンパ腫の微小環境構成分子との相互作用を含めたアンジオクライン分子の分泌産生機構の解明について、代表者が東京大学医科学研究所を兼務することとなったことから改めて、これらを主眼に据えた研究を進めることにする。また当初予定していた自然発症型の白血病・リンパ腫モデルについても、今年度までに確立した発症型モデルの使用等、当面可能な範囲から、生体内での白血病・リンパ腫におけるアンジオクライン分子群動態の網羅的解析を試みながら、白血病・リンパ腫細胞と微小環境構成細胞との相互作用等、生体内外の実験系でその機能解明をおおむね研究計画に沿って進めていく予定である。また今年度まで他大学との共同開発を進めてきた、各種アンジオクライン分子の分泌・産生を制御する線溶活性を調節する各種薬剤による白血病・リンパ腫治療への移植医療を含めた臨床応用ついても、粘り強く継続し、トランスレーショナルリサーチとしての出口も意識しつつ展開し、これを推進していくこととする。
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