研究実績の概要 |
チロシンキナーゼ阻害薬ダサチニブの治療を受けているフィラデルフィア染色体陽性白血病患者の一部では,末梢血中のT細胞やNK細胞が増加することが報告されている。我々はこれらの患者のNK細胞を詳細に解析し,ダサチニブ治療中に起こるNK細胞の表面形質の多様な変化が,サイトメガロウイルスの再活性化によって起こる変化として統一的に解釈できることを主成分分析を用いて明らかにした。この結果はダサチニブ治療によるNK細胞増加とサイトメガロウイルスの再活性化に密接な関係があることを示している(Ishiyama K, Kitawaki T, et al. Leukemia. 2017;31(1):203-212.)。 上記の研究においてダサチニブ治療中の一部の患者でNK細胞にPD-1が高発現していることを見出したことから追加の解析を行った。その結果,PD-1の発現上昇がCD56陰性NK細胞サブセットの増加と強く相関しており,CD56陰性NK細胞サブセットでPD-1発現がより高いこと,また,PD-1陽性NK細胞ではPD-1シグナルにより細胞傷害活性が抑制されているが,免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブにより抑制が部分的に解除されることを見出した(投稿準備中)。 これらの結果はダサチニブ治療中,NK細胞にPD-1発現が誘導されることによってNK細胞の機能が抑制されるが,免疫チェックポイント阻害剤を併用することによってNK細胞の機能を回復させ,NK細胞による抗腫瘍免疫を増強させられる可能性があること示している。 この可能性をin vivoの系で検証するため,マウスの腫瘍モデルにおいてダサチニブと抗PD-L1抗体の併用効果を見る実験を行っている。各薬剤の単独治療群と比較して,併用療法群では腫瘍の増殖スピードが遅くなる傾向のある結果を得ている。この系に関しては,今後さらに検討を進める予定である。
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