研究課題
本研究の目的は、多発性骨髄腫におけるインテグリンα8の発現と機能を解析する事である。目的を達成するために、①骨髄腫患者腫瘍細胞、骨髄腫幹/前駆細胞、正常骨髄でのインテグリンα8の発現解析、②インテグリンα8およびインテグリン活性化に必須であるtalin-1の遺伝子を改変した骨髄腫細胞を用いた増殖能、浸潤能、骨髄生着能、アポトーシス、抗骨髄腫薬反応性 の解析、 ③インテグリンα8の骨髄内リガンドの同定 を行う予定としている。平成27年度には、主に①と②に関する実験を進めた。具体的には、患者検体を用いた、骨髄腫細胞におけるインテグリンα8発現についての検討を、さらに症例を増やして解析を行った。興味深いことに、骨髄内でのインテグリンα8の発現が、正常骨髄では形質細胞に限局しているのに対して、骨髄腫患者骨髄では、B前駆細胞の一部にも発現を認める症例が存在する事が確認された。近年の知見では、末梢血中に存在する骨髄腫細胞が予後に関与するという報告がある。そこで、末梢血中に存在する微量な骨髄腫細胞を解析する手技の確立を進めた。さらに平成27年度には、骨髄腫細胞株KMS12-BM、RPMI8226にインテグリンα8を過剰発現した細胞株を用いて移植実験を行った。予想とは異なり、免疫不全NOGマウスへの移植実験では、その骨髄生着能には明らかな違いは認められなかった。インテグリンα8を発現している細胞株U266を用いて、インテグリンα8陽性分画と陰性分画をFACS法で単離し移植実験を行った場合も同様の結果であった。この結果は、インテグリンα8が骨髄生着に関与していないことを示す可能性がある。ただし、移植実験の結果は移植前の放射線量や使用する免疫不全マウスの種類といった移植条件により左右される場合があるので、さらに検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、インテグリンα8の正常または骨髄の腫患者骨髄内での発現に関する詳細な解析、および形質細胞分化と多発性骨髄腫進展における機能的な役割についての基礎的な研究を行っている。申請時の計画では、平成26年度に、多発性骨髄腫患者・ヒト正常骨髄、マウス骨髄でのインテグリンα8の発現パターンを明らかにし、マウスへの移植実験を用いて、骨髄腫細胞のvivoでの生着能について検討、平成27年度以降に遺伝子改変細胞株の確立と機能解析およびインテグリンα8の骨髄内リガンドの同定を行う予定であった。結果として、平成27年度には計画したほとんどの実験を行う事が出来た。インテグリンα8過剰発現細胞株を用いた移植実験を行い、また骨髄腫患者骨髄の検討をさらに進めることが出来た。
全体として、現時点で本研究の進捗状況に問題はないと考える。本研究での計画内容の中で、インテグリンα8の骨髄内リガンドの同定についての検討が遅れているため、平成28年度には重点的に行う予定である。また、インテグリンα8の機能解析と共に、患者末梢血でのインテグリンα発現の検討を進める予定である。
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