研究課題
ヒトの様々な疾患とサーカディアンリズムとの関連が注目されているが、致死的疾患である癌、特に白血病との関連についての解析はほとんど為されていない。生体内でサーカディアンリズムは臓器・細胞レベルに至るまで広く存在し、その機能について新たな知見が集積されている。白血病発症に関与する構成成分(時計遺伝子)の解析は、この調節機構が如何に破綻し生体内で白血病の発症に関わるのか、さらに広義の癌の発症に関わる課題も明らかになってくるものと思われる。我々は、当科に入院した急性白血病患者の初診時骨髄検体を用いて時計遺伝子群のmRNA発現レベルをreal time PCR法にて解析した(この研究は当院IRBにて審査され、患者の文書による同意を得ている)。Per1-3、Bmal1遺伝子は健常人骨髄に比べ発現低下し、一方でCry1,2、Clock遺伝子は発現増加していることが示された。さらに臨床的にはCry1/Per2比が予後予測因子と相関していることが明らかとなった。このように白血病患者の芽球において優位な時計遺伝子の変動を認められたことは、白血病発症機構に時計遺伝子およびその遺伝子産物によって調節される分子が何らかの役割を果たしていることを示唆するものである。さらに我々はG-CSFによる末梢血幹細胞動員時の白血球時計遺伝子の発現変化についても解析を行い、G-CSF投与により有意な時計遺伝子の変化があること(PER3,CRY2,BMAL1の低下、CRY1の増加)その変化は血中ノルアドレナリン濃度と相関関係があることが示された。末梢血幹細胞動員時に交感神経系を介して時計遺伝子の発現調節が行われていることを示唆する所見であり、サーカディアンリズムの観点から幹細胞採取効率化につながる方法を検討中である。上記の結果については現在論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
患者検体を用いた時計遺伝子の解析は既に予定通り進行している。さらに末梢血幹細胞動員時の白血球時計遺伝子の変化については興味深い結果が得られ論文投稿中でリバイスの結果待ちの状態である。
時計遺伝子発現変化と白血病腫瘍化の関係について着目し、臨床検体を用いた解析から 時計遺伝子の基本因子であるPer2, Bmal1,Cry1発現レベルと造腫瘍能について研究する。近年,遺伝子の転写制御についてヒストンの修飾によるクロマチンの構造変化(クロマチンリモデリング)が数多く報告されているが,時計遺伝子においてもその重要性が注目されている。ヒストンH3の4番目のリジン残基に特異的なメチルトランスフェラーゼであるMLL1はサーカディアンリズムをつかさどる時計遺伝子群の発現に必要な場の制御を行うことが報告された(Katada. Nat Struct Mol Biol. 2010)。MLL1は予後不良な11q23転座型白血病細胞から単離された蛋白であり、その代表的なMLL-AF9キメラ遺伝子の白血病発症機構における時計遺伝子の機能について検討する。
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