研究課題
H27年度は(1)原爆被爆者に見られた骨髄異形成症候群(MDS)症例を対象として詳細な染色体異常の検討、(2)被爆者造血器腫瘍のゲノム解析、を実施した。(1)は、シーケンス解析では詳細な検討が難しい染色体の構造的な異常を検討する目的で実施した。被爆者MDS131例、およびコントロールとして非被爆者MDS298例の骨髄細胞核型を検討したところ、被爆者群において59例(45%)、非被爆者群で141例(38%)に異常核型が見られた。核型異常の頻度は被爆者群では被爆距離によって分けた3群(<1.5km, 1.5-3.0km, >3.0kmの3群)において、距離が近いほど有意に高率(それぞれの距離群で70.4%、48.6%、33.3%。P=0.001)であった。染色体異常はMDSにおける最も強力な予後因子であるが、この3群間では全生存には有意差は認めなかった(P=0.85)。その理由を検討するため核型を詳細に検討したところ、被爆距離<1.5kmの群では有意に染色体の構造異常が増加していた。(2)のシーケンス解析では、急性骨髄性白血病(AML)と骨髄増殖性腫瘍(MPN)を続けて発症した被爆者例の細胞を対象として遺伝子異常を解析し、AMLと化学療法後に寛解が得られた時期の「正常」造血、さらにMPNが、実はいずれも遺伝子異常を抱えた同一のクローン性造血を基盤としていることが明らかとなった。本例ではAML, MPNの細胞はいずれも正常核型であり、造血器腫瘍の解析においては遺伝子配列解析が重要であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
原爆被爆者の骨髄異形成症候群については、130例という多数の例を集積し、染色体の構造的異常および数の異常を詳細に検討することができた。予後と染色体異常との関連から、被爆者MDSにおける染色体異常はde novo MDSにみられる染色体異常とはその意義が異なることが示唆された。これは、現在進行中の遺伝子解析において検討の方向性やその解釈に対して極めて重要な情報となる結果であった。また、遺伝子解析でも極めて詳細な解析が可能であった例では、クローン性造血から異なる二つの骨髄系腫瘍が時期を変えて発症しうるという世界で初めての知見を示すことができた。
最終年度は、これらの知見を論文化しつつ、原爆被爆者MDSのゲノム解析結果をまとめる。これまでに得られているゲノム解析結果のみならず、症例を追加してターゲットシーケンスを行い、染色体の解析から得られている結果との比較を実施する。これを通じて放射線がどのように造血器腫瘍、特に骨髄異形成症候群の発症とその特徴に影響を与えているのか、ゲノム異常の観点から明らかにして行く予定である。
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