研究課題
多発性骨髄腫は造血器悪性腫瘍において2番目に多い疾患であるが、いまだに完治が困難な難治性疾患である。高度治療抵抗性の原因としては、病態形成に関わる染色体異常や遺伝子異常など分子生物学的異常が極めて多彩であるうえ、症例間における不均一性が高度であり、普遍的な治療標的分子を同定することが困難であることが一因と考えられる。本研究課題において、我々は多発性骨髄腫細胞の生存や増殖に、セリン・スレオニンキナーゼであるPDK1(PDPK1)、ならびにその下流キナーゼであるRSK2が極めて重要な役割を担うこと、cyclin D1、c-Myc, IRF4など疾患形成に重要な役割を担う分子の活性を制御すること、PDK1やRSK2の恒常的活性化は病態形成の初期から進行期において認められ、かつ、約90%以上の症例に認められる疾患に普遍的な細胞現象であることを見出した。さらに今年度は、PDK1恒常的発現の分子メカニズムの解析に臨み、ノンコーディングRNAであるmiR-375の骨髄腫細胞における発現低下が、その原因であること、miR-375の発現低下には、そのプロモーター領域における高メチル化やアセチル化異常などエピジェネティック異常が重複して関与していること、こうした異常は骨髄腫症例においてもほぼ普遍的に認められることを突き止めた。また、脱メチル化剤やヒストン脱アセチル化阻害剤などの治療薬により、こうした異常を解除しうる可能性が示唆されており、現在、その詳細についてさらに解析を継続中である。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、分子生物学的異常の不均一性によって普遍的な治療標的分子の同定が困難であった多発性骨髄腫において、PDPK1/RSK2シグナル経路、ならびにその異常をもたらすエピジェネティック制御機構の普遍的な制御異常の関与を明確にすることができた。今後、こららがもたらす病態形成への本質的意義や、治療標的としての可能性についてさらに詳細に研究を展開する礎となる研究が進められているものと考える。
1.骨髄腫瘍環境における骨髄腫細胞中のPDK1恒常的活性化の意義について、in vitro骨髄擬似環境モデル、in vivo骨髄腫モデルを用いて明らかにする。具体的には、薬剤抵抗性、腫瘍環境と骨髄腫細胞のシグナルクロストークなどについて明らかにする。2.PDK1制御異常の原因として,miR-375異常が同定されたことから、今後の臨床応用を目指し、循環血液中のtumor-derived circulating DNAにおけるPDK1の発現レベルや、circulating miR-375のもつバイオマーカーとしての臨床的意義についても研究を展開したい。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Genes Chromosomes Cancer.
巻: 54 ページ: 788-795
10.1002/gcc.22290.