研究実績の概要 |
(1)接着耐性獲得時のヒストンメチル化様式の変化をウェスタンブロットにより解析の結果、転写制御に鍵となるヒストン修飾であるヒストンH3のK4/K9/K27/K36/K79のジメチル、トリメチル、及びヒストンH4K20のジメチルの中では、H3K27のメチル化様式のみが接着/非接着下間で異なっており、接着下ではメチル化が顕著に抑制されていた。ストローマ非接着下で、EZH2のノックダウンやK27メチル化阻害剤DZNepは、抗がん剤によるアポトーシス誘導を有意に抑制したことから、K27メチル化抑制が接着耐性獲得に働いている可能性が示唆された。 (2) 接着耐性獲得時のK27メチル化抑制には、メチル化酵素EZH1、EZH2、脱メチル化酵素UTX、JMJD3の中で、EZH2の活性変化によることを明らかにした。EZH2は21番目のセリン(S21)や492番目のスレオニン(T492)がリン酸化されるとメチル化活性がなくなることが報告されている。そこで、接着に伴うEZH2リン酸化の状態をウェスタンブロットにより検出の結果、S21リン酸化の亢進が見られ、接着/非接着下においてS21のリン酸化とK27のメチル化がレシプロカルになっていることを明らかにした。 (3) kinase 阻害剤のライブラリーを用いたスクリーニングの結果、akt, cdk, IGF-1R、PI3K kinase阻害剤にEZH2リン酸化の抑制効果と、接着耐性抑制効果が見られた。これらkinaseの発現をノックダウンすると、接着耐性は有意に抑制された。従って、接着耐性獲得にはこれらのkinaseの関与が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
H3K27トリメチル化の下流で働く薬剤感受性制御分子の同定。 (1) ChIPシークエンスを用いて、プロモーター領域のH3K27がメチル化されている遺伝子群をスクリーニングする。さらに接着/非接着下間で発現様式を比較し、接着下で発現がrestoreされる遺伝子を同定する。 (2) スクリーニングにより絞り込んだ遺伝子のノックダウンや過剰発現の作用をin vitro接着耐性再現系を用いて解析し、鍵分子を同定する。 (3)先に同定したEZH2リン酸化kinaseを含む接着耐性の鍵分子に対する低分子阻害剤の効果をin vitro接着耐性再現系およびマウスモデルを用いたin vivoの系で検証する。なお、骨髄腫マウスモデルについては、Oslo大学Bogen教授より供与を受けたマウス骨髄腫細胞株(MOPC315.BM)(PLos One, 7,e51892,2012)を用い、Balb/cマウス骨髄内で増殖可能なモデルを用いて検証を進める。以上より、H3K27トリメチル化を介した薬剤耐性獲得の分子機構解明により、耐性を克服しうる新規治療法の開発を目指す。
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