研究課題
新規薬剤の登場により骨髄腫の予後は改善したが、ハイリスク症例の予後は未だに不良であり、髄外病変形成は深刻な臨床的問題点である。我々はハイリスク骨髄腫細胞では、上皮間葉系移行遺伝子(EMT関連遺伝子)が高発現していることを見出した。とくにt(4;14)転座を有するハイリスク骨髄腫細胞では、N-cadherinが過剰発現している。我々はその臨床的意義を明らかにするために、骨髄腫患者検体を用いた免疫組織学的検討に着手した。一方我々は、ハイリスク骨髄腫細胞にもアポトーシスを誘導する新規フタルイミド体TC11を見出し、それに直接結合する蛋白質としてNPM-1およびα-tubulinを同定した。本年度はTC11がNPM1に結合することによって、骨髄腫細胞にどのような影響が生じるのかについて検討を進めた。その結果、NPM1のノックダウンした骨髄腫細胞株では、その増殖能が低下した。また、TC11処理によりNPM1のリン酸化が亢進していることが判明した。その下流シグナルについてさらに検討を進める。なお、NPM1は細胞周期において多量体を形成することによって機能を発揮するが、TC11が多量体形成を阻害するデータは得られていない。現在NPM1ノックダウン細胞を入手し、TC11の作用を検討している。また、TC11は催奇形性にかかわるcereblon(CRBN)には結合せず、CRBN下流のIKZF蛋白質の分解を促進しなかった。すなわち、TC11は構造式が類似するIMiDsとは異なる分子機構でハイリスク骨髄腫細胞死を誘導し、CRBNを介した催奇形性を有さないと考えられる。現在、TC11の最適化物の合成に成功し機能解析が進んでいる。骨髄腫細胞株KMS34は、SCIDマウスに皮下注射すると数週で形質細胞腫を形成する。これを髄外病変のモデルと見立てて、xenograftよりGFPでgene markingされた腫瘍細胞を取り出し皮下注射前の親株と表面マーカーの発現の相違を検索し、腫瘤形成細胞群の特徴を検討した。
2: おおむね順調に進展している
今回の研究では、 (1)新しい概念による病態解明、(2)克服薬スクリーニングシステムの確立、 (3)創薬シーズの開発を目標としている。(1)については、ハイリスク骨髄腫細胞がhematopoietic epithelial mesenchymal transition(HEMT)を来していることの根拠の一つとして、EおよびN-cadherinやEMT関連遺伝子の骨髄腫細胞における異所性発現をとらえることができた。その臨床的意義について検討が開始された。これとは別に、新規フタル酸誘導体TC11や既存の同誘導体(IMiDs)であるレナリドミドの結合分子としてnucleophosmin-1(NPM-1)を見出し、TC11やレナリドミドがNPM1に結合した後の分子機構について検討を進めた。 (2)については、xenograftモデルが完成し、in vivoでの骨髄腫細胞の増殖抑制を検討するシステムが完成した。尾静脈から微量採血を行いマウスにおける血中動態を検討することも可能となった。(3)このシステムを用いて、あらたなTC11最適化体の骨髄腫細胞のアポトーシス誘導能の増強、薬物動態の改善について検討を進めた。他方、天然資源物質のライブラリーをスクリーニングし、xenograftモデルにおいてハイリスク骨髄腫の増殖を有意に遅延する候補化合物を見出している。このように、研究は進行しているが、ハイリスク骨髄腫の髄外病変の病態解明や克服薬開発という最終目標に到達するには未だ明確な結果が得られていない。3年目では、さらにデータを積み重ねて結論を導き出す必要があり、2年目として「おおむね順調に進展している」と判断した。
造血細胞におけるEMT(HEMT)現象の生物学的意義を明らかにするために、HEMT現象の引き金を追求する。たとえば、新規治療薬使用が髄外病変形成を促進するという専門家の意見や、髄外病変では局所の酸性化が起きているという未公表の観察事項がある。そこで、骨髄腫細胞をレナリドミドに暴露させたり、酸性培地で培養することによって、EMT遺伝子発現の変化について検討を加える。さらに、レナリドミドや酸性環境に暴露された骨髄腫細胞をSCIDマウスに皮下注射し髄外腫瘤形成能の変化を検討する。一方で骨髄腫細胞におけるcadherin群発現の臨床的意義を明らかにするために、骨髄腫患者の骨髄生検標本を用いてEおよびN-cadherin免疫組織学的検討を行い予後や新規治療薬に対する奏効などとの関連を追跡する。これとは別に、TC11の結合分子であるNPM-1の機能解析も推進する。NPM1-/-MEF細胞を入手し、TC11処理の前後でマイクロアレイを用いて野生株との遺伝子発現の相違を検討することによってNPM-1の下流分子の動向を探る。さらに、TC11最適化体を合成しており、最終年度にはin vivoにおけるxenograftの増殖抑制について病理組織学的解析も含めて検討する。同時にマウスにおける毒性評価や薬物動態解析も行い、TC11や既存のレナリドミドに対する優越性を実証する。さらに、天然物由来化合物ライブラリーについてハイリスク骨髄腫の増殖抑制を指標にスクリーニングを行い、IC50<5μMの有望なものを見出した。さらにそれらの構造改変を繰り返し、構造活性相関を検討ながら最適化をすすめる。とくに有望なものについてはin vivoでの薬効評価にうつる。また、分子機構解明にも着手する。実際に骨髄腫細胞に対して強い増殖抑制効果を示す化合物の一つは、活性酸素体を産生することにより骨髄腫細胞にアポトーシス誘導を来すと考えられる。
すべて 2015
すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)