研究課題
多発性骨髄腫に対する新規薬剤の開発の陰で、t(4;14)転座やTP53遺伝子欠失を有する症例はハイリスク骨髄腫とよばれ、未だに絶対予後不良である。我々は、ハイリスク骨髄腫細胞に上皮間葉系移行遺伝子(EMT関連遺伝子)が高発現していることを見出した。とくにt(4;14)転座を有する骨髄腫細胞ではN-cadherinが過剰発現し、正常核型骨髄腫の一部に上皮特異的なE-cadherin発現を有する例が存在する。これらcadherin群を高発現する骨髄腫細胞は、既存薬に抵抗性でSCIDマウスに皮下形質細胞腫を形成する。このことから、ハイリスク骨髄腫細胞は造血器腫瘍でありながら上皮間葉系移行を来し、薬剤抵抗性獲得や髄外病変形成など悪性化にかかわるのではないかと推測している。さらに、レナリドミド等治療薬への長期暴露や酸性下長期培養は、上皮間葉系移行の惹起因子となることも判明した。一方、ハイリスク骨髄腫克服薬の開発も開始し、上皮間葉系移行をきたした骨髄腫細胞にも有効な新規フタル酸誘導体であるTC11を見出した。さらに、研究期間中にTC11の水溶液への可溶化に成功した。近年、免疫調節薬(IMiDs)は、E3ユビキチンリガーゼ複合体の構成成分であるcereblonに結合することによって、基質の分解や細胞内輸送に変化をきたし、腫瘍細胞死や催奇形性をもたらすとされる。しかし、TC11はcereblonには結合せず、α-tubulinやnucleophosmin1に結合し、TP53が欠失していてもG2/M細胞周期停止を来すことにより骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導する。すなわち、TC11はcereblon非依存的にハイリスク骨髄腫細胞死を誘導し催奇形性への懸念も払拭できると推測され、可溶化により実用化に向け前進することができた。
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日本臨床
巻: 74(5) ページ: 316-320