研究課題/領域番号 |
26461433
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
田村 秀人 日本医科大学, 医学部, 准教授 (70256949)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / SLAMファミリー / CD229 / SLAMF7 / 免疫治療 |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫は骨病変、腎障害、血球減少などを特徴とする疾患で、新規薬剤により予後は画期的に改善したものの未だ治癒は困難である。さらなる予後の改善、あるいは治癒を目指すためには、腫瘍微小環境での腫瘍細胞の増殖や薬剤耐性メカニズム、さらには腫瘍免疫抑制機序の解明が必須と考えられる。そこで、本研究では骨髄腫細胞だけでなくリンパ球や樹状細胞にも発現するSLAMファミリー(SLAMF)分子であるSLAMF3(CD229)やSLAMF7(CS-1)などに着目した。これらの分子は同分子をリガンドとして認識し、SAPファミリーアダプター分子を介して活性化シグナルを入れるため、骨髄腫細胞および腫瘍微小環境の免疫細胞に作用し、骨髄腫の病態に大いに関与すると考えられる。そこで本研究では、骨髄腫におけるそれら分子の機能について解析し、骨髄腫病態の解明を行うとともに新規骨髄腫治療法の開発を目的としている。これまでの研究結果では、これらSLAMF分子は形質細胞特異的細胞表面抗原CD138が低下した進行症例においても強度に発現しており、さらに骨髄腫細胞増殖に関与していることが示唆された。しかしながら、既知のSLAMF分子関連アダプター蛋白の発現は骨髄腫細胞には認められず、未知のアダプター蛋白を介して腫瘍細胞に増殖シグナル等を入れている可能性がある。 本研究により骨髄腫におけるSLAMF分子群の機能、すなわち、骨髄腫細胞の増殖と薬剤耐性機序や、免疫細胞の活性化あるいは増殖抑制などが明らかになりつつある。さらに、それら分子の発現は進行症例でも維持されており、骨髄腫細胞を同定する抗原として有用であるとともに、抗体やT細胞を用いた免疫治療の標的となりうる。今後はこれらの知見を基に、免疫抑制や薬剤耐性の解除による新規治療法の開発を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では骨髄腫細胞およびリンパ球や樹状細胞などの免疫細胞に発現するSLAMファミリー(SLAMF)分子SLAMF3、SLAMF7の骨髄腫病態における機能について解析を進めている。これまでに、多くのヒト骨髄腫細胞株(一部の細胞株は当施設で難治性骨髄腫患者から樹立)を用いて、SLAMF分子群の発現と機能について解析が進行しており、ある程度の研究成果がでてきている。また、骨髄腫細胞におけるSAPファミリーアダプター分子群の発現解析をするなど、SLAMF分子からのシグナル伝達についても検討が進んでいるが、今のところ既存のアダプター蛋白は同定されていない。さらに、200症例以上の無症候性および症候性骨髄腫患者より診断時の骨髄細胞を採取し、フローサイトメトリーを用いて患者骨髄腫細胞におけるSLAMF分子の発現を観察、臨床的特徴や予後不良染色体との関連について解析し、その研究成果をアメリカ血液学会年次総会(American Society of Hematology, Annual Meeting 2014)で報告した。現在、骨髄腫に対する免疫治療の標的抗原としてSLAMF 分子群が有用であるか検討中であり、今後、新規治療法開発に応用したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、平成27年度はSLAMF分子群の機能解析をさらに進める予定である。具体的には、骨髄腫細胞株にレンチウィルスによるshRNA を用いたSLAMF分子のノックダウンを行い、骨髄腫細胞の細胞増殖能をBrdU取り込みで、細胞周期の変化をPI 染色、骨髄腫治療薬の感受性をannexin VおよびPI染色によるFCM法で解析する。これらの結果より、SLAMF分子が腫瘍細胞増殖に直接的に関与していることを確認したら、細胞内シグナル伝達するアダプター蛋白の同定を試みるとともに、新規治療法として骨髄腫治療薬とSLAMF分子シグナル抑制併用により骨髄腫細胞傷害効果が増強するかを検討する。 さらに、健常者のNK細胞およびT細胞、およびSLAMF分子群が高度発現する骨髄腫細胞株を用いて、SLAMF分子群が免疫細胞に及ぼす効果を解析する。この際にも、レンチウィルスによるshRNAを用いたSLAMF分子のノックダウンを行いSLAMF分子陰性~弱陽性細胞株を作成し、骨髄腫関連SLAMF分子群が細胞傷害性T細胞、CD4+ T細胞およびサイトカイン産生、樹状細胞や骨髄由来抑制細胞に及ぼす影響について、コントロールSLAMF陽性骨髄腫細胞と比較することにより解析する。 最終的に(平成28年度予定)マウス骨髄腫モデルを用いて、骨髄腫関連SLAMF分子群ノックダウンしたヒト骨髄腫細胞株を、放射線照射により免疫抑制をかけたNOD/Shi-scid,IL-2Rγ KO(NOG)マウスに経静脈的に移植する既報のマウス骨髄腫モデルで検討する。腫瘤量や生存期間を比較することにより、骨髄腫関連SLAMF分子群の役割についてin vivoで解析する。さらに、これらの結果より新規治療戦略について検討、SLAMF分子を標的としたキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞などを用いた新規免疫治療の開発を目指す。
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