多発性骨髄腫(MM)は未だ治癒困難な疾患であり、さらなる予後改善には腫瘍微小環境での腫瘍増殖や薬剤耐性のメカニズムの解明が必須である。本研究ではMM細胞に高発現するSLAMF3とSLAMF7に着目した。これら分子は、正常リンパ球では同分子と結合、アダプター蛋白を介して活性化シグナルを入れるが、MM細胞における機能については不明な点も多い。そこでMMにおけるそれらSLAMF分子の機能を解析し、MM病態の解明と新規治療について検討した。 約200例の患者MM細胞の解析では、これらSLAMF分子は形質細胞特異的抗原CD138の発現低下した進行例においてもその発現強度は維持されていた。また、SLAMF陽性MM細胞では陰性細胞に比べて、増殖能が高く、MM治療薬に耐性であり、病態進行に重要な役割を果たすと考えられたが、MM細胞には既知の活性型SLAMF関連アダプター蛋白は発現していなかった。 さらに、進行期MM患者では、血清可溶型SLAMF3・7が高値になっており、可溶型も病勢進行に関与することが示唆された。可溶型SLAMF7は抗SLAMF7抗体との結合により抗体依存性細胞傷害活性を低下させ、抗体治療の効果を減弱させた。しかし、患者血清可溶型SLAMF7は抗SLAMF7抗体治療薬エロツズマブ投与後、急速に中和され低下した。また、他の治療薬でも部分奏効以上となった症例では、血清可溶型SLAMF7値が測定感度以下に低下していた。 また、in vitro において、FITC標識抗SLAMF7抗体およびFITC標的キメラ抗原受容体T細胞の併用は、SLAMF7発現MM細胞を特異的に傷害した。これらの結果より、SLAMF発現は病期進行例でも維持されており、MM細胞の同定抗原となるとともに抗体やT細胞を用いた免疫治療の標的となる可能性が示唆された。
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