研究課題
悪性腫瘍における微小環境は、病勢の悪化や化学療法抵抗性を付与する。我々は、その微小環境を構築するストローマ及び炎症性細胞によって修飾される線維化や血管新生の重要性を報告してきた。しかしどのような前駆細胞がどこから遊走しストローマ、線維芽細胞や内皮細胞に分化するか不明である。そこで我々は、間質に存在する多能性幹細胞であるMUSE(Multilineage-differentiating Stress Enduring)細胞に着目しリンパ腫において解析を行ったところ、間質に組織学的特徴のあるホジキンリンパ腫等において多数集簇していた。またその浸潤数は、炎症の程度と相関している傾向があった。そこで次のステップとしてMUSEの遊走機構を解明すべく、血管新生と悪性リンパ腫の予後不良マーカーであるFGF2との関連について研究を進めた。間質を形成する細胞群の1つであるosteoblastのcell lineである7F2をFGF2で刺激後にmRNAを抽出しmicroarrayを施行した。その結果、血管新生を強力に促進するVEGF-Aの発現が上昇すること、血管の安定化を促す因子であるangiopoietin-1の発現が減少することが判明した。実際にELISAで確認したところVEGF-Aのタンパク質レベルの増加は、約7倍と著増していた。isoformの解析をしたところVEGF-A121とVEGF-A164の発現が認められた。VEGF-Aは、最も強力な作用を有するisoformと報告されている。以上の現象は血管内皮の接合を緩め新たな血管を形成する上で重要と考えられる。しかしながら当初予想されたケモカインの発現上昇は認められなかった。そのためリンパ腫細胞を実際に培養した上清をもちいてmigration assayを行い、もし遊走が認められれば、上清中に存在する遊走促進因子を同定する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究期間内に解明、確立する項目の1つとしてMUSE細胞のリンパ腫微小環境への遊走メカニズムを考えている。FGF2による新たな血管新生メカニズムの端緒が解明できたことは、今後有望と思われる。またヒト間葉系幹細胞よりMUSEを単離してあるため、リンパ腫細胞と接触するとどのような細胞に分化するか近日中に解析する予定である。骨芽細胞のマイクロアレイ解析を行ったが当初予想されたケモカインの発現上昇は認められなかった。そのためリンパ腫細胞を実際に培養した上清をもちいてmigration assayを行い、もし遊走が認められれば、上清中に存在する遊走促進因子を同定する予定である。それと同時にメタボリズムに関する複数の遺伝子発現上昇が観察されたが、これの持つ生物学的意義については、検討中である。またストローマ上においては、細胞周期が静止期となる現象を観察したが、これがMUSEの多能性を維持するのにどのように機能しているのか候補物質を検索している。
リンパ腫細胞からのMUSE細胞への直接的な影響を検討するため、リンパ腫細胞と細胞染色液にて標識したMUSE 細胞をin vitroで共培養する。一定期間後にMUSE細胞をシャーレよりはがし分化している(fibroblast, mural cell, endothelial cell等)か否か検討する。具体的には、抗S100A4 抗体、抗α-SMA抗体、抗vWF抗体等を用いてflowcytometryやconfocal microscopyにて解析することを予定している。in vitroでの解析が終了後には、免疫不全マウスを用いて同様の実験を行う。具体的にはマウスにリンパ腫細胞とMUSEを混ぜ合わせ皮下注する。腫瘍が形成後にそれを取り出しMUSEがどのような細胞に変化しているかを解析する。また炎症性細胞もまたMUSEの分化に大きな役割を果たしていると考えられるので肥満細胞やマクロファージなどの炎症性細胞とMUSE細胞をin vitroで共培養し、直接的な影響を検討する(項目は上記と同じ)予定である。
すべて 2016 2015
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Transfusion
巻: 未定 ページ: 未定
10.1111/trf.13507
VoxSanguinis
巻: 108 ページ: 243-250
10.1111/vox.12208
巻: 55 ページ: 2576-2581
10.1111/trf.13201