研究課題
低酸素環境(1% O2)で長期間安定して生存可能な多発性骨髄腫細胞株(HA-MM)は幹細胞マーカー(Oct3/4、Sox2、Nanog、等)のmRNAを、Normoxia環境下で生存する親株に比して有意に高発現しており、免疫不全マウスを用いた移植実験において、HA-MM細胞はより少数の細胞での定着を認め、さらに二次移植実験においても親株に比べ生着率が高く、MM幹細胞の性状を有している。本幹細胞様HA-MM細胞では、下流のSmad2のリン酸化亢進を認め、MMにおいてはTGF-β/Smadシグナル系がMM幹細胞維持に関与することが示唆された。SB化合物処理により、G0期分画が有意に減少した。またメチルセルロース培地をもちいたclonogenic assay(replating法)では、SB化合物処置にてコロニー数、サイズの減少を認め、HA-MM細胞の幹細胞性維持にTGF-β/Smadシグナル系が重要であることが裏付けられた。骨髄微小環境とMM細胞との相互作用を検証するため、MM細胞とHS5骨髄間質細胞との共培養系におけるHS5細胞の悪性化を、がん関連線維芽細胞のマーカーであるα―smooth muscle actin(α‐SMA)の発現を検討した。MM細胞株との共培養によりHS5細胞にα‐SMAの発現増強が見られ、MM細胞維持に関わる骨髄間質細胞は、MM細胞からの“教育”を受けMM細胞維持に働いている可能性が示唆された。新たな幹細胞マーカーの一つとして、C7orf24に注目し検討を開始した。C7orf24はグルタチオン代謝に関わるγ-グルタミルシクロトランスフェアーゼをコードし、膀胱がんや前立腺がん等の新たながんマーカーとして報告されている。現在、MM細胞株にてC7orf24の発現を解析しており、正常単核球に比して著明な高発現を認めることを確認している。
2: おおむね順調に進展している
MM細胞の幹細胞性維持にTGF-β/Smadシグナル系が意義あることが証明され、MM幹細胞の新たな標的経路としての可能性が示された。また、MM細胞の維持に関わるHS5骨髄間質細胞が、MM細胞から何かしらの影響を受け悪性化していることを明らかにした。さらに、γ-グルタミルシクロトランスフェアーゼをコードするC7orf24が骨髄腫細胞株で高発現であることが確認され、治療標的分子である可能性が示唆された。以上、3点の進捗を認め、おおむね良好な進捗と考える。
①免疫不全マウスを用いた移植実験において、MM細胞の幹細胞維持にTGF-β/Smadシグナル系有用であることを示す予定である。②骨髄間質細胞のα‐SMA発現に関わるMM細胞からの刺激伝達をエクソゾームに着目し検討する予定である。③C7orf24の低酸素環境適応MM幹細胞の治療標的となるか、RNA干渉法で検討し、またMMおよびMM幹細胞におけるC7orf24発現の意義を検討する予定である。
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