研究実績の概要 |
マウス同種骨髄移植後のマクロファージの再構築を, MHC不適合のB6→B6D2F1モデルを利用して解析した。従来の全身放射線照射で前処置を行うモデルではなく, より臨床の移植に近づけるため化学療法で前処置を行うモデルを確立した。Busulfan 25mg/kg, day -7~-4とcyclophosphamide 100mg/kg, day -3 ~-2で前処置を行って同種骨髄移植を行った場合, day 50までに60%のマウスが死亡した。一方, コントロールとして同系移植を行った場合は100%生存した。T細胞除去を行い, GVHDが起こらない同種骨髄移植をした場合でも, day10までに, 好中球のドナーキメリズムは100%となっていた。腸管のマクロファージのドナーキメリズムは, day3で9%, day5で16%, day7で48%と時間とともに生着していた。これらのマクロファージの働きを調べるために, 抗CSF-1抗体を用いてマクロファージを除去したところ, 腸管上皮の増殖因子の産生が低下する事が判明した。これらの腸管上皮増殖因子は, 腸管の非血液・非上皮細胞から産生され, 腸陰窩の延長を起こしている事が分かった。これは, マクロファージが腸内細菌からの刺激により活性化され, 非血液・非上皮細胞を刺激し, 上皮細胞の増殖因子を産生させているものと予想された。これを証明するため, マウスに抗生剤を投与してから移植をすると, 腸管上皮の増殖因子の産生が抑制される事が判明した。腸管粘膜上皮の損傷による腸内細菌の粘膜上皮内への侵入がマクロファージを活性化させ, 非血液・非上皮細胞からの腸管上皮の増殖因子を来すというメカニズムは, 粘膜損傷後の腸管のホメオスターシスを保つ重要なフィードバックシステムと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスモデルを用いた組織マクロファージの再構築の解析とその移植後の生体の恒常性に果たす役割に関する研究は, 予定通り遂行されている。血液中の単球と比較すると腸管のマクロファージの生着の速度はゆっくりであった。しかし, 腸管以外の組織固有マクロファージの生着の速度と比較するとかなり速いと考えられる。こうした腸管マクロファージの比較的速い生着は, 腸内細菌からの刺激によって起こっている可能性がある。計画書にある, 同系移植とのマクロファージの生着速度の差は, 未だ検討がすすんでおらず, この点に関しては次年度以降に検討する事とする。
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今後の研究の推進方策 |
GVHD発症マウスでのマクロファージ再構築の変化:平成26年度と同様にレシピエントマウスに化学療法による前処置を行い, 骨髄細胞に加えて純化したT細胞を輸注する。移植後,週2回GVHDの重症度を評価しGVHD Score を記録する。組織常在および、炎症性マクロファージの再構築と分化を定量する。GVHD発症により,組織常在マクロファージの再構築が遅れ,炎症性マクロファージの浸潤が亢進する事が予測される。 GVHD を発症させる活性化アロ反応性T細胞は,マクロファージによる貧食を促進する代表的な因子であるPhosphatidylserineの発現を充進させており,レシピエントの組織常在マクロファージと共培養すると貧食される。一方,アロ反応性ではないT細胞は貧食を免れ,逆にマクロファージによって生存が促進される。この様に,レシピエントの組織常在マクロファージは有害なアロ反応性T細胞を貧食する事によってGVHDを抑制していると考えられる。移植後にドナー由来の組織常在マクロファージを純化し,アロ反応性T細胞とそれ以外のT細胞と共培養し,貧食が起こるか否かを検討する。アロ反応性T細胞が貧食されるようであれば, ドナーの組織常在マクロファージもGVHD抑制作用を持っていると考えられる。同様の検討をドナー由来の炎症性マクロファージに関しても行う。マクロファージによる, 腸管の粘膜上皮の増殖因子の産生に関してはさらに, 産生細胞の詳細な同定と, その産生の調節機構の解明を試みる。
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