研究実績の概要 |
今年度は, 皮膚マクロファージのGVHDに果たす役割を研究した。G-CSFを投与したドナーマウスから採取した脾細胞を, 主要組織適合性抗原複合体半合致であるレシピエントマウスに投与すると, T細胞とCD11b陽性のマクロファージが皮膚に浸潤して皮膚急性GVHDが生じた。特に, ドナー細胞の表皮/真皮境界および毛包への浸潤が著明であった。これらの細胞浸潤の結果, 毛包のLGR5陽性組織幹細胞が著明に傷害され, それに伴って毛包の消失や脱毛が生じている事が示された。LGR5+ fate mappingマウスに, 皮膚欠損を作成すると, 創傷治癒の過程でLGR5陽性皮膚幹細胞から分化した細胞が、盛んに表皮のケラチノサイトに分化する。ところが、皮膚GVHDの生じているマウスでは, 皮膚組織幹細胞が減少し, 表皮への分化が著明に傷害されているため, 創傷治癒が有意に遅延していた。こうした皮膚変化を治療するため、JAK1/2阻害剤を塗布したところ、T細胞やマクロファージの浸潤が抑制され、GVHDの皮膚病理所見が改善していた。それにともなって、脱毛の軽減と創傷治癒の促進も認められた。現在の標準的な皮膚GVHD治療法である、ステロイド剤の塗布を行ったところ、逆に皮膚幹細胞は減少し、脱毛は軽減せず、創傷治癒も遅延していた。皮膚幹細胞の障害は, 同系移植でGVHDが生じない場合でも見られており、ステロイド剤の長期塗布による有害な作用と考えられた。こうした、ステロイド剤の欠点を持たずに、強力な抗GVHD作用をもつJAK1/2阻害剤は, 現在の標準的な治療であるステロイド剤より有効なGVHD治療法である可能性が示唆され、今後の臨床応用が待たれる。
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