研究課題
同種造血幹細胞移植後に発症する慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の発症基盤に、制御性T細胞(Treg)の数的及び機能的異常が指摘されている。この慢性GVHDに対して、IL-2を低用量投与することにより、Tregを選択的に増加させることで、免疫寛容を導入しうることが臨床試験の結果から示されている。しかしながら、Tregの増加は移植片対白血病効果(GVL効果)をも減弱させることが懸念され、IL-2療法中のTregホメオスタシスを正確にコントロールする技術の開発が必要である。平成26年度の研究で、マウスに低用量IL-2を投与すると、CD62L+CD44+のCentral Memory表現型を有するTregが増幅すること、このTregはPD-1は高発現していること、さらにこのPD-1経路を抗体またノックアウトマウスを用いることで遮断すると、IL-2療法中のTregホメオスタシスが破綻し、Treg数が減少することなどを明らかになった。これらの結果から、IL-2療法中のTreg恒常性が長期に保持されるためには、PD-1発現による抑制的なコントロールが重要な役割を担っていることが示唆された。平成27年度は、このマウス実験の結果に基に、ヒトTregにおけるPD-1経路の意義について検証した。慢性GVHDに対する低用量IL-2試験の臨床検体を解析したところ、IL-2投与開始後4週目にTregにおけるPD-1発現はピークに達した。このPD-1発現上昇はTregにのみ観察され、通常CD4T細胞(Tcon)では上昇が見られなかった。その後に、IL-2療法による臨床効果がみられた患者検体とみられなかった患者検体を比較したところ、臨床効果がみられた患者群において、よりTreg特異的にPD-1上昇がみられる傾向が確認された。
2: おおむね順調に進展している
これまでの二年度の研究において、マウスモデルおよびヒト臨床検体を用いた検討を行い、いずれにおいても、IL-2に富む炎症環境下におけるTreg恒常性の維持には、PD-1経路による抑制性コントロールが重要な役割を果たしていることが示唆された。特に、臨床検体解析において、IL-2投与後に慢性GVHDが改善した患者群において、Treg上のPD-1発現上昇が顕著であった結果からは、TregのPD-1発現は、Treg恒常性を標的とする免疫療法の開発において、そのバイオマーカーとなる可能性を示すものである。これらの結果から、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
平成28年度は、これまでの研究結果の発表に務める。また、Tregに発現するPD-1の機能解析を進める。さらに、今後の臨床応用を考える上で、他の免疫抑制剤がTreg上のPD-1発現に及ぼす影響について、マウスモデルおよび臨床検体を用いて検討する予定である。
平成27年度は、マウス実験から臨床検体解析へ移行したため、マウス飼育費、研究試薬が予定よりも減額できたため、次年度使用額が生じた。
平成28年度はマウス実験の増加を予定しており、ノックアウトマウスや免疫抑制薬などの研究試薬の購買に使用する予定である。
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Transfusion
巻: 56 ページ: 886-92
10.1111/trf.13437
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10.1111/trf.13283.