研究課題/領域番号 |
26461451
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
進藤 岳郎 佐賀大学, 医学部, 助教 (10646706)
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研究分担者 |
木村 晋也 佐賀大学, 医学部, 教授 (80359794)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 造血幹細胞移植 / 移植片対宿主病(GVHD) / 抗腫瘍免疫 / MEK阻害剤 |
研究実績の概要 |
「造血幹細胞移植において、MEK阻害剤の投与は移植片対宿主病(Graft-versus-Host Disease: GVHD)を選択的に抑制し、抗腫瘍免疫(Graft-versus-Tumor Effects: GVT)を温存する」という仮説に基づき、マウス骨髄移植モデルで検証した。 FDAの承認を受けた新規MEK阻害剤trametinibを、3種類のマウスモデルに経口投与した。1) B6->BDF1(MHC半合致移植モデルで、腸管のGVHDを来す)、2) B10.D2->Balb/c(Minor MHCミスマッチモデル)、3) B6->BDF1(移植時、同時にP815腫瘍細胞株を輸注:B6のT細胞がP815に対する抗腫瘍免疫を発揮するため、GVT効果の観察が可能となる)。 モデル1では、trametinib投与で体重減少と下痢が軽減され、マウスの生存期間も有意に延長した。モデル2では、trametinib投与でday 70-100における皮膚の硬化と脱毛などが軽減され、またvehicle投与群に比べ、速やかなB細胞の生着をみた。モデル3では、vehicle投与群に比してtrametinib投与群の生存は延長し、かつtrametinib投与でP815腫瘍細胞株の増殖を認めなかったことより、trametinibは抗腫瘍免疫を温存すると考えられた。これはカルシニューリン阻害剤tacrolimusの投与でP815の増殖を認めたこととは対照的で、「Trametinibは造血器腫瘍を免疫学的に抑制しつつ、GVHDを選択的に抑制する」という当初の仮説が実証されたと考える。 本内容は2015年の米国造血細胞移植学会や日本血液学会総会で発表し、いずれも高い評価を受けた。現在論文を投稿中で、2016年の日本血液学会国際シンポジウムでの招聘講演が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の仮説はヒト末梢血を用いたin vitroでの検討から得られたものだが、マウスモデルにおいて、MEK阻害剤が実際にGVHDを軽減することを示せた。本検討を通して、GVHDの抑制に必要とされるMEK阻害剤の投与量や期間を明らかにすることができ、またその効果を複数のモデルで確認できた。 Trametinib投与の安全性について、大量の投与では骨髄球系細胞の生着を遅らせるが、その作用は一過性であること、またMEK阻害剤は制御性T細胞を温存することが分かった。抗腫瘍免疫の温存は、難治性造血器腫瘍の治療では特に重要で、これまでの免疫抑制剤ではなし得なかった、抗腫瘍免疫を最大限強化した移植が可能になるかもしれない。これらの作用はいずれもヒト造血幹細胞移植で有用で、ヒト検体で得られた仮説がマウスモデルで検証されたことと会わせて考えれば、ヒトにおける臨床試験の計画、実施に向け、大変有意義な知見である。 対外的にも高い評価を得ることができ、2015年6月のがん分子標的治療学会学術集会では優秀ポスター賞を受賞した。国際学会(米国造血幹細胞移植学会)や国内総会(日本血液学会学術集会)での発表を行った他、2016年は日本血液学会の国際シンポジウムへの招聘講演が決定している。論文執筆も順調で、2016年の上半期には受理される見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
悪性黒色腫に対するtrametinibの投与は既にFDAおよび厚労省で承認され、その安全性は高い精度で担保されているが、造血幹細胞移植への影響は未知であり、臨床試験の前に検証が必要である。我々は、ヒト末梢血やCD34陽性造血幹細胞、あるいは臍帯血を免疫不全マウスに輸注し、xenogenic GVHDモデルを作成した。本モデルでは、MEK阻害剤のヒト細胞への作用をin vivoで観察することが可能である。MEK阻害剤が造血幹細胞の生着に与える影響につき、慎重に検討することを第一のテーマとする。 第二に、抗腫瘍免疫の温存について、さらに詳細な解析を行う。機序として、腫瘍抗原に特異的なT細胞を温存することが想定されるが、この他にもPD-1/PD-L1など、免疫チェックポイントへの作用について検証し、その他の抗腫瘍免疫賦活療法との併用可能性を探る。 第三に、ヒト造血幹細胞移植におけるGVHD患者、特に既存の免疫抑制剤では制御できない、難治例での臨床試験実施を目指す。実際には、患者末梢血中のリンパ球におけるERK1/2のリン酸化を解析し、リン酸化レベルがGVHDの重症度と相関すること、また治療効果を反映することを示す。またin vitroで患者リンパ球にtrametinibを添加し、対象患者へのtrametinibの至適投与量とスケジュールを決定する。上記検討で安全性がより確実視されれば、具体的な臨床試験のプロトコール作成に入る。
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