研究課題
本研究は、マウス胎仔期において、造血幹細胞がどのように産まれてくるのかを明らかにすることを目的としており、とくに幹細胞性の獲得と転写抑制との関係に焦点を当てて進められている。幹細胞性獲得メカニズムの解明は、いまだ達成されていない造血幹細胞の試験管内誘導や長期培養技術の開発につながっていくと考えられる。造血幹細胞は胎仔期に血管内皮細胞から産まれることが知られているが、血管内皮細胞から産み出された直後の血液細胞(前駆細胞)は、まだ幹細胞としての能力を持たず、これらが造血幹細胞になるためにはさらなる成熟過程が必要とされている。これまでの研究では、前駆細胞から造血幹細胞への成熟過程において、mRNA量が大幅に減少することを明らかにしている。この結果は、造血幹細胞が産まれる際にゲノム全体に及ぶ転写抑制が起きていることを示唆している。ゲノム全体におよぶ転写抑制が起きる際には、細胞径の減少を伴うことがしばしば報告されていることから、前駆細胞と造血幹細胞への成熟過程における細胞径の変化について調べた。実際、造血幹細胞は前駆細胞に比べて小さくなっていることが確認された。また、CD71(transferrin receptor)とCD98 (amino-acid transporter)の発現減少も観察された。これらの変化はmTORシグナルによって引き起こされることが報告されており、造血幹細胞の発生におけるmTORシグナル系の関与が示唆される。
3: やや遅れている
mTORシグナルの関与について調べるために遺伝子改変マウスの解析が必要となったが、その導入に時間がかかっている。
造血幹細胞の発生におけるmTORシグナルの関与について、Tsc1ノックアウトマウス(mTORシグナルの活性化)を用いて調べる。mTORシグナルが関与しているのであれば、Tsc1ノックアウトマウスにおいて造血幹細胞の発生が抑制されているはずである。また、mTORシグナルの阻害剤であるラパマイシンを妊娠マウスに投与し、胎仔において造血幹細胞の発生が促進されるのかを調べる。
造血幹細胞発生におけるmTORシグナルの関与という新たな可能性が生じたことで、当初の実験計画を変更することになったため。
新たな遺伝子改変マウス(Tsc1ノックアウトマウス)の導入、解析(移植実験、遺伝子発現解析等)に使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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