結合織疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、膠原病難治性病態の一つである。病理学的には肺動脈の血管収縮、リモデリング異常等を呈し、局所のエンドセリン1(ET1)の発現亢進等が関わることが示されているが発症機序の詳細は不明である。本研究は、膠原病性肺高血圧症におけるIPAS/HIF-3αシグナル異常の意義を究明し、IPAS/HIF-3αシグナルを標的とする新規治療法の開発基盤の確立を目的とする。具体的には、①膠原病性肺高血圧症患者におけるIPAS/HIF-3α遺伝子異常(多型)の解析、②IPAS/HIF-3α遺伝子異常がもたらすIPAS/HIF-3α分子機能の変調ならびにHIFシグナルの異常の肺高血圧症における役割の究明、③IPAS/HIF-3αシグナルを標的とする膠原病性肺高血圧症の新規分子療法開発の基盤構築、の3つの柱より構成される。 前年度までにPAH合併強皮症患者において統計学的優位に高頻度で認めるHIF-3A遺伝子SNPを同定し、SNP導入IPAS/HIF-3αは通常型IPAS/HIF-3αに比べ、1)ヘテロ二量体形成パートナーHIF-1βとより強く結合し、2)ET1遺伝子プロモーターに高い親和性で結合し、3)ET1遺伝子転写を強く活性化することを明らかにした。本年度は、SNP導入IPAS/HIF-3αの二量体形成能、ET1遺伝子プロモーター活性化様相の解析を発展的に継続した。まず、HIF-1βとの結合について生細胞内で解析するため分子間FRET解析システムを構築した。通常型IPAS/HIF-3αとHIF-1βの間には分子の近接を示す標識蛍光分子の励起発光が観察され、解析システムが構築できたことが示された。一方、SNP導入IPAS/HIF-3αによるET1遺伝子プロモーターの占拠様式をゲルシフト法で詳細に解析した結果、レポーターアッセイでの結果同様、HRE配列と近傍のシス配列の双方に結合することが確認された。現在、CRISPR-CAS9によるゲノム編集法を用いて同配列への結合を生細胞内で検証するシステムを構築中である。
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