研究課題
顕微鏡的多発血管炎(MPA) は小型血管への好中球浸潤を伴う壊死性血管炎で,肺胞出血,糸球体腎炎などを合併する自己免疫疾患であり病因は不明な点が多い.自己抗体であるAnti-neutrophilic cytoplasmic antibody (ANCA) が産生されることが特徴的である.従来の血管炎動物モデルは,血管病変の分布(スペクトラム)がヒトのMPAとは異なるため,MPAの病態解明や新たな治療法の開発にはヒト型MPAを再現できる動物モデルの確立が待たれていた.最近,好中球の活性酸素を産生するNOX活性依存的にNETsという再妨害構造物を形成し微生物との結合し殺菌に寄与する新たな生体防御機構が発見された.異常なNETs形成は,ANCA産生へと繋がりMPAを発症することが示唆されている.しかし,この異常なNETsがどのような機構の破綻を介して惹起されるかは未解明である.NOXの活性制御にはイノシトールリン脂質(PIs)が関与することから,研究者は,PIs代謝酵素であるmyotubularinファミリー(MTMRs) 分子群に着目した.平成26年度に野生型マウスにMPAを誘発できる独自の方法を開発した.このモデルは病理組織学的にスペクトラムがヒト型MPAを再現し,ANCA上昇も認められた.平成27年度の研究実績として,好中球機能が低下する遺伝子改変マウスにこの独自の方法でMPAを誘発し,MPA発症が抑制されることから,独自の方法は好中球機能依存的であることを確認した.いくつかの好中球特異的MTMRs遺伝子欠損マウスおよびPIs代謝酵素遺伝子欠損マウスに独自の方法でMPAを誘発し,組織学的検討,ANCA価測定を行った.どの遺伝型がMPA発症促進的に寄与するか検討した.NOX活性,分子の局在,NETs形成,PIsの変化を含む細胞生物学的解析を行った.
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の進捗状況は,研究計画書通りにほぼ順調に遂行した.研究の目的として,1)ヒト型MPAを再現できる誘発型MPAモデルの開発,2)好中球機能依存的モデルであることの確認,3)好中球特異的MTMRs遺伝子欠損マウスでのMPA誘発と疾患発症促進的な遺伝子型の選定,4)MTMRs遺伝子欠損マウス由来の好中球での細胞生物学的検討,5)NOX活性制御およびNETs形成に対するMTMRsの関係の検討,6)ヒト好中球でのMTMRs分子群の遺伝子発現の検討,である.第1から第3項目までが平成26年度の予定(遂行),第4項目以降が平成27年度よび平成28年度の予定である.平成27年度は,第4項目および第5項目について遺伝子欠損好中球の機能を細胞生物学に総合的に検討した.MTMRsのPIs制御における機能がいかにNETs形成に関わるかという端緒を含む有意義な結果を得た.
今後の研究計画として,MPA促進的なMTMRs遺伝子欠損マウス由来の好中球を用いて,更に詳細な細胞生物学的解析を行う.ヒト好中球でのMTMRs分子群の遺伝子発現の検討については,医療機関などとの連携を進める.今年度に得られた知見に基づき,新たな治療法の開発に繋げる.
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Cancer Discov
巻: 5 ページ: 730-739
10.1158/2159-8290.CD-14-1329