研究課題
ループス腎炎は全身性エリテマトーデスの重篤な臓器合併症の一つで、遺伝的背景、補体や自己抗体を介した免疫複合体、T細胞やB細胞の免疫異常、腎臓局所での炎症などによって引き起こされることが知られている。特に腎臓局所では糸球体基底膜に存在する糸球体上皮細胞(ポドサイト)の機能異常が蛋白尿発現と関連があり、物理的バリアとしての機能だけでなく免疫機能を有することが明らかにされつつある。我々はループス腎炎患者血清からIgGを分離し、それが細胞培養系ポドサイトにinternalizeされ、免疫学的機序を含めたポドサイトの機能変化をもたらす可能性について報告した。IgGのポドサイトへのinternalizationはFcRnの発現をノックダウンさせることによって阻害されたことから、ポドサイトにおいてはIgGのinternalizationにFcRnが重要な役割を示していることが考えられた。マイクロアレイによるGene Ontology解析では、「regulation of T cell activation」が有意な変動を示していた。このTermでは12遺伝子が変動し、CAMK4, CD86, MAP3K7, MALT1, CD47がqRT-PCRでも有意に変動していた。さらにCAMK4をsi-RNAでノックダウンすると、ポドサイトに発現しているCD86も同時に抑制されていた。これらの結果からCAMK4を阻害することによりポドサイト架橋蛋白Nephrinの発現回復、抗原提示機能を有するCD86の発現低下を介して蛋白尿改善効果が期待される。ループス腎炎患者のIgGは糸球体に沈着し、糸球体障害を起こすことは知られていたが、我々はポドサイトに直接的に働き、細胞機能変化をもたらすことを示し、ループス腎炎の治療標的となることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究課題に対して成果が得られ、複数の学会発表や論文発表を行うことが出来た。
上記の方法論を用いて、我々は新規にターゲット分子を選択し、ループス腎炎のポドサイトにおけるその機能的役割について検討したいと考えている。最近の報告で、signaling lymphocyte activation molecule (SLAM) signalingはSLEをはじめとする自己免疫疾患に関与していることが示された(Autoimmunity. 2011 May;44(3):211-8. )。またSLAM family(SLAMF)の中でそのレセプターであるSLAMF3やSLAMF6がSLE患者のT細胞に発現し、Th17細胞の分化に関与していることが報告されている(J Immunol 2012; 188:1206-1212.)。さらにこれまでの研究で、SLAMF分子の中でもSLAMF6がループス腎炎患者において発現が亢進していることが示されている(personal communication from Prof. Tsokos GC, Harvard Medical School, Boston)。これらのsignal pathwayはT細胞だけではなく、ポドサイトにおいてもcell deathを引き起こすことによって、腎臓基底膜からのポドサイトの脱落、蛋白尿バリア機能低下を来すことが想定され、重要であると考える。以上の知見から我々はSLAMF分子をターゲットとし、ポドサイトの物理的なバリア障壁以外の機能についても検討していきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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