研究課題
メトトレキサート(MTX)は、関節リウマチ(RA)治療の中心的治療薬として世界中で最も使用されている抗リウマチ薬である。MTXは細胞内でグルタメート化されて薬効を発揮するとされるが、その細胞内代謝酵素の活性には遺伝子多型の影響が知られている。また、MTXの重篤な副作用として肝障害・骨髄抑制・間質性肺炎があるが、通常用量の投与でも症例によって重篤な副作用が生じ、継続投与困難例が存在する。一方、少量投与で治療効果が得られる例もあれば、最大用量までの増量にも関わらず治療効果が得られない例もある。これらの治療効果の差および副作用の発現には代謝酵素活性が関与している可能性が考えれ、MTXは個別化医療が最も必要な薬物の1つである。申請者らは従来の研究で赤血球内MTX総濃度を簡便法で測定してきたが、必ずしも十分な成果が得られなかった。そのため、今回の研究では液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)による赤血球内MTX測定法を検討した。その結果、赤血球内MTX総濃度は2~10 mg/週の範囲では用量依存性に細胞内総濃度が増加した。しかし、10 mg/週を超える服用量の患者ではほぼ一定の濃度であった。次に、グルタメート数で長鎖(MTXPG3-5)と短鎖(MTXPG1-2)に分けて検討したところ、赤血球内MTXPG3-5/1-2比は副作用のために減量を余儀なくされた例で低かった。また、トランスポーターであるSLC19A1と脱グルタメート化酵素のγグルタミルヒドロキシラーゼ(GGH)のいくつかの遺伝子多型(SNPs)を検討したが、いずれもMTX赤血球内総濃度およびMTXPG3-5/1-2濃度比、さらに種々の臨床所見との関連性は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
申請者は、申請の段階で既に36例という少数例だがRA患者の赤血球MTX-PGs濃度を検討しており、その結果、血清CRP濃度の改善と正相関が認められた。そこで、今回はより多くのRA患者を対象に赤血球MTX-PGs濃度を測定し、臨床所見の詳細なデータとの関連を検討する計画とした。既に335例の患者を対象としてゲノムDNAを収集し、MTXを採血時点で服用中の271例の赤血球MTX-PGsを簡便法により測定した。細胞内MTX濃度は個体差が大きいものの、全体としては用量依存性に赤血球総MTX-PGs濃度が増加することを見出した。ただ、この測定法が簡便法であったことから、申請書に記したように、本研究計画で液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)による測定法を確立した。それにより、これらの赤血球内MTX濃度を再測定し、概要に示したような結果を得たことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。同時に申請書にあるようなMTX代謝関連の遺伝子多型の検討を開始した。申請者らが検討した遺伝子多型は、従来はあまり注目されてこなかったMTXの細胞内取り込み、脱グルタメート化に関連する遺伝子であったが、少なくとも今回検討したトランスポーターや細胞内酵素の遺伝子多型では前述の赤血球濃度や副作用の発現との関連性を見いだせなかった。今年度は他の酵素の検討に進め、また詳細な臨床所見との関連性も検討し、RA患者におけるMTX治療に関する個別化医療に役立つ成果を出したい。
現在のところ、前述したようにおおむね順調に研究は進んでいる。また、RA患者のサンプルも既に335例(内MTX服用者は271例)であり、今回の研究計画には充分と考えられる。そこで、今年度から来年度にかけて、既に検討したSLC19A1やGGH以外の細胞内代謝関連酵素などの遺伝子多型を検討し、また患者情報もさらに収集して解析し、RA患者におけるMTXの細胞内代謝動態とその臨床的意義を明らかにしていく予定である。
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Modern Rheumatology
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http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kogen/research/achievement_db.html