研究課題/領域番号 |
26461483
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
後藤 大輔 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50344891)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 間質性肺炎 / γδT細胞 / IFN-γ / IL-17A |
研究実績の概要 |
間質性肺炎は膠原病に合併する難治性内臓病変の一つであり、当研究室のマウスでの基礎研究からヒトCD161陽性γδT細胞がヒトにおける間質性肺炎の発生/増悪に関与している可能性があり、さらなる病態と新規治療の標的となりうる機序の解明を目的として研究を進めている。 初年度の研究により、ヒトCD161陽性γδT細胞はインターフェロン(IFN)-γとIL-17の産生能が高いことを見出した。実際の膠原病疾患患者検体を用いた研究から、特に強皮症患者において末梢血中のCD161陽性γδT細胞が増加していたが、間質性肺炎のマーカーでもあるKL-6値とは負の相関関係にあった。その理由として、末梢血細胞から樹立したCD161陽性γδT細胞cell lineの研究で、特に強皮症患者のcell lineでは有意に抗線維化作用を有するIFN-γ産生能が低下していることが原因と考察した。 さらにヒト検体の蓄積を進めつつ、実際のヒトでは難しい間質性肺炎発症組織中のγδT細胞に関する研究を、ブレオマイシン誘導間質性肺炎モデルマウスを用いて行うこととした。間質性肺炎を誘導した肺組織では明らかにγδT細胞は増加し、そのγδT細胞でIFN-γとIL-17産生能が高いという結果は、奇しくもヒトの末梢血CD161陽性γδT細胞と同じであった。 そこで、γδT細胞が産生するIFN-γとIL-17のどちらが間質性肺炎の病態に優位に働いているかを検証するために両サイトカインのノックアウトマウスでの実験を行ったところ、どちらのノックアウトマウスも肺でのコラーゲン産生が低下した。 そこで、γδT細胞欠損マウスを用いて解析したところ、ブレオマイシン誘導間質性肺炎の線維化が悪化した。そして、悪化した組織中にIL-17A産生T細胞が増加していることを見出した。γδT細胞とIL-17A産生T細胞との関係が、間質性肺炎発症メカニズムを解く新たな鍵となる可能性を考えて、さらに研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の大きなテーマである「ヒトCD161陽性γδT細胞による間質性肺炎/病態維持のメカニズムの解析」に関して、初年度には膠原病疾患患者のヒト検体を用いて、特に強皮症においては末梢血CD161陽性γδT細胞と間質性肺炎のマーカーであるKL-6値との負の相関関係を明らかにすると共に、末梢血CD161陽性γδT細胞からcell lineを作成し、強皮症患者からのcell lineでは抗線維化作用のあるIFN-γ産生能が低下していることを明らかにしている。 今年度も、ヒト検体も収集を続けているが、特に強皮症は希少疾患であり、簡単には検体数を増やすことが難しいことに加え、初年度の研究は末梢血中の細胞での研究に留まっているが、最も重要なのは肺組織中での解析と考えている。しかしながらヒトでは特に生体の肺組織での研究は困難なため、ブレオマイシン誘導間質性肺炎モデルマウスを用いて基礎データを集めることとした。 その結果、本モデルにおける肺組織ではγδT細胞が増加し、ヒトCD161陽性γδT細胞と同様にIFN-γとIL-17産生が増加していることを明らかとした。さらにγδT細胞ノックアウトマウスを用いた研究では間質性肺炎像の悪化を認め、その組織内にはIL-17A産生T細胞が増えていることを明らかとし、間質性肺炎形成においてIL-17Aが注目すべきサイトカインである可能性を示唆するデータを得ている。 今後は、IL-17Aが主にどの細胞から産生され、どのように間質性肺炎形成に関与しているかをマウスで検討するとともに、再度、この視点からヒト間質性肺炎病態の解明を目指す予定としており、研究予定としては、やや基礎研究の部分が増えているが、新たなキープレイヤーを見つけ出すことに成功しており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
膠原病疾患に合併したヒトの間質性肺炎において、特に強皮症患者で有意に末梢血CD161陽性γδT細胞が増加しているが、そのIFN-γ産生能は低下し、間質性肺炎マーカーであるKL-6値とは負の相関が有ることを初年度に明らかとした。そして、今年度は実際の肺組織での病態解明を目指してブレオマイシン誘導間質性肺炎モデルマウスを用いた研究を行い、γδT細胞欠損マウスでは間質性肺炎は悪化し、さらに悪化した肺組織中にはIL-17A産生T細胞が増加しており、IL-17Aが間質性肺炎の病態形成/増悪因子である可能性が示唆されている。 今後はこの点をさらに明らかとするため、間質性肺炎発症時に主にIL-17A産生する細胞集団を探索し、その細胞群の解析を行うと共に、IL-17Aノックアウトマウスに同定した細胞集団を入れて、間質性肺炎発症が再現できるか否か等の検証を含めた基礎研究を続けたい。 できれば、特に有意なデータを得ている強皮症患者において肺組織や気管支肺胞洗浄液(BALF)において、上記基礎研究から得られたデータの確認を行いたいと考える。しかしながら、希少疾患である強皮症での検体採取は、倫理的なことも有り困難と予想されるが、可能であれば少数例であっても検証したいと考えている。ヒト末梢血での研究には限界があり、肺組織と同じ環境とは言い難いと理解しているが、検体として収集しやすい末梢血での研究も検討したい。 上記の通り、基礎研究での結果を出しながら、ヒトでの検証をさらに進め、新たな治療標的となりうる病態の解明を目指して研究を進める予定である。
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