研究課題/領域番号 |
26461485
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
前澤 裕子 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (00724923)
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研究分担者 |
中島 裕史 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00322024)
高取 宏昌 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (30568225)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アレルギー性炎症 / シトルリン化 |
研究実績の概要 |
これまでの研究結果から、卵白アルブミン(OVA)を抗原とする喘息モデルマウスを用いた気道炎症細胞浸潤において、炎症局所および所属リンパ節にpeptidylarginine deiminase (PAD)の高発現が見られること、低分子不可逆的PAD阻害剤である2-Chloroacetamidine (2CA)の全身投与により炎症組織におけるPAD活性および抗原誘発性気道炎症が著明に抑制されること、抗原特異的T細胞の増殖が2CAにより抑制されることが解っており、PADが何らかの形で抗原誘発性気道炎症の惹起あるいは維持に関与している可能性が示唆されていた。そこで本年度の研究目標として、2CAによる炎症細胞浸潤抑制のより詳細なメカニズムを明らかにすることを目標とした。 まず、in vitroにおいて活性化マウス脾臓T細胞を用いて解析を行った結果、 PAD2およびPAD4が刺激により発現亢進することが判明した。肺炎症組織におけるPADアイソタイプの局在についても、炎症局所ならびに所属リンパ節内のT細胞に一致してPAD2およびPAD4発現が示唆された。 また、 2CAの全身投与により主にCD4陽性T細胞の気道への浸潤が抑制され、所属リンパ節内においてもCD4陽性T細胞数および比率の減少が見られる一方、他のリンパ組織(胸腺、脾臓)においてはリンパ球分画に変化を来さない事より、2CAの抑制作用は炎症局所に限定されることが示唆された。 また、 2CA は抗原特異的T細胞の増殖をin vitroの系にて抑制することが明らかとなっていたが、 さらに、ヒトT細胞株(Jurkat)を用いた検討において2CAによる細胞増殖サイクルの抑制によるアポトーシスの誘導とp53/p21経路の関与が示唆された。これらのことからT細胞レセプターからのシグナルおよび細胞増殖シグナル経路において、PADによるシトルリン化のターゲットとなる複数の蛋白分子が存在する可能性が考えられた。今後、細胞および蛋白レベルでのより詳細な解析を実施していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の到達事項として、活性化T細胞において発現しうるPADアイソタイプとしてPAD2およびPAD4が刺激により発現亢進することを明らかとした。肺炎症組織におけるPADの局在についても、炎症局所ならびに所属リンパ節内のT細胞に一致した 発現を示唆する結果が得られた。2CAのターゲットとなる細胞種の解析としては気道炎症局所並びに所属リンパ節内におけるCD4陽性T細胞数および比率の減少を明らかにしたが、CD4陽性T細胞のサブポピュレーションの詳細については今後詳細な解析を行って行く予定である。また2CAの作用が炎症局所(気道ならびにその所属リンパ節)に限定されていること、全身リンパ組織への影響や細胞毒性が少なくとも本研究にて使用している範囲(8μg/ g/BW)においては認められない、といった重要な知見を得ることができた。 また、2CAにより細胞増殖の抑制だけでなくアポトーシス誘導作用という予想外の結果も得られている。 これらから、2CAによる炎症細胞浸潤抑制のより詳細なメカニズムを明らかにするという目標に関して一定の成果が得られたと考えられる。しかしながら、2CAのターゲットであるシトルリン化蛋白分子の同定に関しては、T細胞レセプターシグナルのいずれかの部位である可能性が高いとの推測は得られているが、その分離および機能解析には至る事が出来ておらず、今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
OVA誘発性喘息モデルマウスの炎症組織(炎症気道および所属リンパ節)におけるPADの局在とアイソタイプの同定については、より特異性の高い抗体の入手により今後詳細な同定を行っていく予定である。2CAのターゲットとなるCD4陽性T細胞のサブポピュレーションの 詳細については、今後マルチカラーフローサイトメトリー等を用いて検討を進めていくとともに、セルソーター等を用いて気道組織から分離後のPADおよびシトルリン化蛋白を含めた蛋白発現パターンの解析を行う。 また、2CAによる活性化T細胞機能抑制に関しては、ターゲットとして主な機能を果たすシトルリン化タンパクの同定について、より特異性の高い抗体を入手し免疫沈降・マススペクトロメトリー等による解析を進めて行く。また、ヒト組織においてもマウスと同様に炎症局所でのPAD発現亢進や2CAによる抑制効果などが見られるか否か、当施設付属病院の協力下により気管支喘息患者の手術検体等を入手し解析を進めて行こととするが、検体収集が困難な場合は関連施設への協力依頼や海外組織バンクを利用することも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の費用が当初の計画より小さかったこと、ならびに付随する物品費が実験進捗状況により当初の使用予定額より少なく済んだ事が主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験系(マウス)の拡充、免疫染色(抗体購入等)に関わる諸費用、蛋白分離ならびに解析(マススペクトロメトリー)等に伴う諸費用として使用予定である。また、臨床検体の入手が当施設の付属病院から入手困難である場合、国内あるいは海外の組織バンクなどからの入手を検討しており、その為に必要な諸費用に当てる予定である。
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