研究課題/領域番号 |
26461488
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松尾 裕彰 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 教授 (60346385)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 食物アレルギー / 抗原 / 抗原吸収 |
研究実績の概要 |
食物アレルギーの感作や症状誘発に、消化管における抗原透過性が深く関与しているため、抗原の消化管透過性を制御することによる新しい食物アレルギーの予防法や治療法の開発が期待できる。しかし、ヒト消化管の抗原透過性を簡便に評価する手段が無いため、この領域の研究はあまり進んでいない。本研究では、LC-MS/MSを用いた血中抗原測定法を開発し、抗原の消化管透過性の評価法を確立し、食物アレルギーモデル動物および患者において、消化管の抗原透過性が食物アレルギーの病態にどのような影響を与えているかを明らかにしたい。 今年度は、LC-MS/MSによるオボアルブミン(OVA),ω5-グリアジン,γ-グリアジンの定量法確立のための基礎的検討を行った。精製OVA、および、精製リコンビナントω5-グリアジン,γ-グリアジンをLC-MS/MSにかけ、ペプチドのプレカーサーイオンを検出した。その結果、OVAとγ-グリアジンについては、数種類のペプチドが検出された。同定したペプチド中には、これまでに報告されているIgE結合エピトープ配列を含むものが数種類存在していることが分かった。一方、ω5-グリアジンについては、ペプチドが全く検出されなかった。そこで、消化酵素をトリプシンからキモトリプシンに変更して同様の解析を行った。その結果、IgE結合エピトープを含む数種のペプチドが検出された。検出されたペプチドを定量マーカー候補とした。次に、免疫沈降法を用いた血清中のOVAの特異的抽出法の検討を行った。ラットにアスピリンと共にOVAを経口投与した後に採血して得られた血漿から、抗OVA抗体を結合させ磁性ビーズを用いて、OVAを抽出できることを明らかとした。また、OVAをアスピリンと共に経口投与することで、血中にOVAが吸収される消化管アレルゲン吸収モデルラットを作製できることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最も重要な点は、LC-MS/MSを用いた血中食物アレルゲンの定量法の確立である。現在までに、卵および小麦抗原の吸収マーカーとなるアレルゲンペプチド候補を同定した。また、ラットを用いて、アスピリンと食物抗原を同時に経口投与することで、アレルゲンが吸収され血中に出現することを明らかにした。これらの結果をもとに、LC-MS/MSによるラット血中アレルゲンの定量方法の検討を行うことが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、LC-MS/MSによるOVA、γ-グリアジン、ω5-グリアジンの定量が可能であることが示された。しかし、血中にはアルブミンやグロブリンなどのタンパク質が多量に含まれているため、微量アレルゲンを定量するためには、アレルゲンを抽出し濃縮する必要がある。今後、ラットにOVAあるいはグリアジンを経口投与した後に採血して得られる血漿からアレルゲンを抽出する方法を検討する。これまでに、抗OVA抗体を結合させた磁性ビーズにより抽出可能であることが分かっているが、多量の検体を処理するには不向きであるため、スピンカラムやアルコール添加による血漿タンパク質の除去を検討する。さらに、経口摂取したアレルゲンは消化管において消化酵素により分解されると予測される。そのため、ラット血漿中アレルゲン分子の状態を解析し、定量に用いるペプチドフラグメントの絞り込みを行う。また、OVA経口感作モデルラットを作製することができたので、このモデルラットを使用して、アスピリンが食物アレルゲン感作にどのような影響を及ぼすかを解析する。
|