研究課題
食物アレルギーの感作や症状誘発に、消化管における抗原透過性が深く関与しているため、抗原の消化管透過性を制御することによる新しい食物アレルギーの予防法や治療法の開発が期待できる。本研究では、LC-MS/MSを用いた血中抗原測定法を開発し、抗原の消化管透過性の評価法を確立し、消化管の抗原透過性が食物アレルギーの病態にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目的としている。昨年度は、LC-MS/MSを利用したオボアルブミン(OVA),ω5-グリアジン,γ-グリアジンの定量法確立のための基礎的検討を行った。OVA、ω5-グリアジン、および、γ-グリアジンの標準品をLC-MS/MSにて解析し、プレカーサーイオンが検出されたペプチドを定量マーカー候補として選出した。本年度は、OVAについて低濃度検出が可能なプレカーサーイオンとプロダクトイオンの組み合わせを解析した。その結果、OVAの定量に使用可能なプレカーサーイオン候補として4つのペプチドと、それぞれのトランジションを決定した。今回決定した条件で検量線を作成したところ、検出限界は5 ng/mLであった。ヒト血清中のOVA濃度は5‐100 ng/mLであるため、さらに感度を上げる必要がある事が分かった。γ-グリアジンについては、定量に用いるプレカーサーイオンの絞り込みを実施し、3つのペプチドを選出した。また、グリアジンを70%エタノールで抽出・濃縮した後に質量分析計で測定可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究で、卵および小麦抗原の消化菅吸収量マーカーとなるプレカーサーイオン候補を絞り込むことができた。さらに、OVAについてはLC-MS/MSを用いて検出限界5 ng/mLの感度でOVAを測定できることを明らかにした。また、これまでにラットを用いて、アスピリンと食物抗原を同時に経口投与することで、アレルゲンが吸収され血中に出現する事を明らかにした。これらの結果から、LC-MS/MSによるOVAの定量方法の確立、および、血中OVAの測定方法検討が可能となった。
これまでの研究で、LC-MS/MSによるOVAおよびγ-グリアジンの定量が可能であることを示した。ω5-グリアジンについては、現時点で定量に利用するプレカーサーイオンの絞り込みに至っていないため、引き続き定量に利用できるペプチドの選択を実施する。血清中には多量のタンパク質が含まれるために、微量に存在するアレルゲンを検出・定量するためには、血清タンパク質の除去が必要である。今年度、グリアジンについては70%エタノール抽出可能であることを明らかとなったことから、血清中のグリアジンをエタノール抽出後に定量可能か否かを評価する。一方、OVAについては抗OVA抗体を利用した免疫沈降による濃縮およびスピンカラムによる血漿タンパク質の除去を検討する。経口摂取後に消化管から吸収されたアレルゲンは酵素により分解されていると考えられる。そのため、ラットにOVAあるいはグリアジンを経口摂取させた後の血清中アレルゲン分子を解析し、これまでに選出した定量に使用予定のペプチドが血液中に存在すること、および、それらを利用して血中抗原を定量できることを確認する。さらに、アレルゲン経口感作モデルラットを使用して、アスピリンが食物アレルゲン感作相に及ぼす影響を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件)
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