食物抗原の消化管透過量の違いは、食物アレルギーにおける抗原感作あるいはアレルギー症状の誘発に何らかの影響を及ぼしていると考えられている。したがって、抗原の消化管透過性をコントロールすることによる新しい食物アレルギー予防法や治療法の開発が期待される。本研究では、消化管の抗原透過性が食物アレルギーの病態にどのような影響を与えているかを明らかにすることを最終目的として質量分析計(LC-MS/MS)を用いた血中抗原測定法を構築し、抗原の消化管透過性の評価方法の確立を試みた。 LC-MS/MSを用いて卵アレルゲンであるOVAの測定に利用できるプレカーサーイオンとプロダクトイオンの組み合わせの検討を行い、OVA定量に利用可能なプレカーサーイオンとして6つの候補を選び、それぞれのトランジションを決定した。これら6つのプレカーサーイオンのOVA濃度とピーク面積の直線性を評価した結果、GGLEPINFQTAADQAR(2+)イオンがOVA測定に最も適したプレカーサーイオンであることを明らかにした。次に、ターゲットペプチドのC-末端に存在するアルギニンを安定同位体置換した標識ペプチドを内部標準として、LC-MS/MSを用いたMRM-HR法によるOVAの定量法の開発を試みた。その結果、抗OVA抗体を用いた免疫沈降によるOVAの濃縮後にトリプシン消化した試料をMRM-HR法により測定することで、ラット血漿中のOVAを0-150 ng/mLの濃度範囲で定量できることを明らかにした。さらに、この方法を用いて、50 mgのOVAを経口投与したラット血漿中に存在するOVAの濃度を実際に定量することに成功した。
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