研究課題
近年アレルギー疾患において炎症反応を引き起こすメカニズムに対する解析が数多く行われておりIL1ファミリーのサイトカインIL33も炎症に関与する重要なサイトカインの一つである。血管内皮細胞、上皮細胞、繊維芽細胞などの核内にはもともとIL33が存在し感染や細胞障害に伴う細胞壊死により細胞外に放出される。IL33のレセプターであるST2はTh2細胞、マスト細胞、樹状細胞、抗塩基球などに発現しており放出されたIL33がST2に結合することにより細胞内にシグナルが伝達される。マスト細胞はIL33の結合によりIL4, IL5などTh2タイプサイトカインの産生、さらにIL6, TNFなど種々の炎症性サイトカイン、ケモカインを産生しアレルギーの発症へと導く。私達はヒトマスト細胞株LAD2細胞、末梢血中抗塩基球を用いた実験からST2遺伝子は転写因子GATA2により発現を調節されていることを明らかにした。また日本人アトピー性皮膚炎患者と健常人にはIL1レセプターの発現に関して相関がある遺伝子多型があることを報告した。しかしIL33とST2の結合によるシグナルとST2遺伝子、サイトカイン遺伝子の発現調節については不明な点が多く残されている。さらにIL33刺激によって発現増加が認められるST2遺伝子のバリアントである膜結合型ST2 (ST2L)と可溶型ST2 (sST2)それぞれの発現調節についても不明な点が多く残されている。そこでIL33刺激によるST2遺伝子の発現調節についてさらに検討するため解析を行っている。ST2はマスト細胞の他に抗塩基球にも発現しておりST2の発現機構を解析することはアレルギー反応を制御するための重要なステップであると考えられる。
3: やや遅れている
ヒトマスト細胞株LAD2を用いIL33刺激により増加するST2L, sST2の発現調節メカニズムおよびそれぞれの分子特異的な発現調節のメカニズムの解析を試みた。IL33/ST2により引き起こされる炎症反応を抑制するためST2L発現制御、細胞内シグナルの伝達制御、ST2L, sST2特異的発現制御について検討を行った。細胞内シグナル伝達については各種シグナル阻害剤を用いST2 mRNA発現量を指標に検討した結果Erk阻害剤によりST2L, sST2 mRNA発現が共に低下していた。同時にIL6, IL13, TNFαなどのサイトカインmRNAも低下していた。しかしST2遺伝子の発現に関与が示されたGATA2の発現にはほとんど変化は認められなかったことからIL33による転写の増加はその他の転写因子の関与あるいはエピジェネティックな変化が関与する可能性が示された。転写因子に付いてはアレイを用いた検索、エピジェネティックな変化についてはChIPシーケンスを用いた検討が必要と考えられる。
ヒトマスト細胞株LAD2はIL33によりST2Lを介して細胞内にシグナルが伝達されST2L, sST2発現が増加しサイトカイン、ケモカイン産生が増加する。しかしシグナル阻害剤(Erk阻害剤)によりST2L, sST2 mRNA発現は共に低下しIL6, IL13, TNFなどのmRNAも発現が低下するがAP1阻害剤では低下しなかった。ST2L, sST2 mRNAそれぞれの特異的発現調節のメカニズムについてはまだあきらかになっていないが、ST2遺伝子発現に重要なGATA2の発現変化は認められなかったことからST2遺伝子に与えるエピジェネティックな変化、GATA2の共役因子の存在、サイトカイン産生に及ぼす効果についてMEKシグナル伝達経路を解析する。アレイ、ChIPシーケンスを行うことによりIL33により活性化されるST2遺伝子上流の情報を解析する。またマスト細胞のST2L, sST2特異的な転写調節調節については今後も検討する。さらにCRISPR/Cas9プラスミドを用いたノックアウト細胞による検討を行う。ST2遺伝子エクソン1aの上流域にある一塩基多型(SNP)と転写活性との関連については検討中であり多型と活性を直接結びつける明らかな結果は得られていない。しかしIL33により活性化される領域をChIPシーケンスにより明らかにしSNP解析の結果と比較検討することから細胞のアレルギー応答性をより正確に解析できる可能性が示唆された。
物品費は試薬購入費用としてほぼ計画通り購入、使用したが学会出張費として旅費を使用しなかったため差異が生じた。
実験計画によりChIP、アレイなど高額な試薬等を使用する予定がある。
すべて 2015
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Allergol. Int.
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