本研究は、全身性エリテマトーデス(SLE)の病態形成における濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞の病原的役割とTfh細胞への分化偏向を誘導するエピゲノム機構の解析とその誘導因子を標的とした新たな免疫寛解導入療法への基盤構築を目的とした。 SLE患者末梢血リンパ球では可塑性をもつTfh/Th1(CD4+CXCR5+CXCR3+)様細胞が増加していた。次に、ヒト末梢血ナイーブT細胞をTCR架橋とIL-12で刺激すると、STAT1およびSTAT4のリン酸化が亢進し、IL-21を産生するBcl-6+T-bet+のTfh/Th1様の細胞が誘導された。CD4+T細胞におけるBcl-6遺伝子座のプロモータ領域にはSTATの結合モチーフが存在し、TCR架橋刺激によってSTAT4およびSTAT1の結合が確認された。さらに、クロマチン免疫沈降法(ChIP)にて検討したところ、Bcl-6遺伝子座のプロモータ領域でのSTAT結合部位には、促進型(H3K36me3)および抑制型(H3K9me3)の双方のヒストン蛋白修飾が認められた。すなわちTfh細胞のマスター転写因子であるBcl-6遺伝子座はbivalent domain 様のヒストン修飾を受けており、ヒトTfh細胞に於ける可塑性が示唆された。 最終年度は、in vitroで分化誘導したTfh細胞を用いて、STAT分子の阻害によるエピゲノム制御を介したTfh細胞の異常な細胞表現型の是正を検討した。その結果、STAT1およびSTAT4のknockdownにより、Bcl-6、T-betの発現が抑制されるとともに、CXCR5、ICOSの発現およびIL-21産生が抑制された。以上、STAT分子の特異的阻害がエピゲノム制御を介したTfh細胞の異常な細胞表現型の是正、及び、活性化分子の発現・機能の抑制をもたらし、SLE患者における治療標的としての可能性が示唆された。
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