研究実績の概要 |
平成26,27年度では、次世代シーケンサーを用いたインフルエンザウイルスの全ゲノム解析を安定して行うための基礎的準備及び実際に日本各地より採取された2011/12年度,2012/13年度,2013/14年度流行のA/H3N2 129株の解析を施行した。 平成28年度では、2014/15年度流行株 A/H3N2 52株の解析を追加した。ここまでの解析分2011から15年度の4シーズンにおけるインフルエンザA/H3N2型株 181株 (ワクチン接種者 82株、未接種者 99株)の HA遺伝子の解析をまとめた。各年度で使用されたワクチン株とのアミノ酸 (AA) 配列を比較する方法を試みた。その結果、HA抗原決定領域における AA 変異数及び変異率は、ワクチン接種者からの分離株が未接種者よりも有意に高かった。4シーズンの変異率の比較では、HA非抗原決定領域では、ワクチン接種者/未接種者間で差がなかったのに対して、HA抗原決定領域では、ワクチン接種者の分離株の方が有意に高かった。2011-14年度の3シーズンは、AA 48、128、142、145、278部位のわずか5部位の内、4部位の変異の変遷で、これらの部位での変異が優勢となる流行株が形成されていた。一方、ワクチン未接種者における罹患株では、ワクチン株と遺伝子配列のほぼ相同なウイルス株が有意に多く検出された。インフルエンザ流行株は、HA抗原決定領域において、ワクチン株のAA配列から異なる方向の変異が選択され、さらにその後の流行株形成に影響していることが示唆された。これらの知見は、ワクチン株配列との変異比較が流行株の中核をなす変異の検出に有用であることを意味していた。ヒトでのインフルエンザ流行株形成に対するワクチン接種の影響を示唆する研究はこれまでになく初めてであり、論文として雑誌Vaccineに採択掲載された。
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