研究課題
本研究は分子生物学的手法によりHIV侵入過程におけるCCR5、CXCR4の動態の詳細な解明を試み、最終的にはそのデータをコンピュータモデリングに応用し、今後のケモカイン受容体阻害剤の開発につなげることを目的としている。我々が以前同定したHIV-1に対して被感染性を喪失するCCR5変異を含む複数の変異型CCR5発現ベクターを作成し、これをU373-MAGI(UM)細胞にtransfectionし、変異型CCR5発現細胞、野生型・変異型CCR5共発現細胞を作成し、限界希釈法でクローニングした。昨年はこれらの細胞を用い、HIV感染実験を行い、共発現細胞株において変異型CCR5の割合が感染性にどのような影響を与えるかを調べた。その結果、10%程度の変異型CCR5の混入で被感染性が50%近く低下する傾向があることが分かった。本年は各変異型CCR5で30個前後の共発現細胞株を作成し、この感染実験を繰り返し行いデータを蓄積した。これらのデータからはHIVの侵入時に複数のCCR5が協同して感染成立に関与している可能性が示唆された。一方で感染を阻害するためにはこれらの複数のCCR5をすべてブロックする必要はなく、一部が機能を喪失すれば感染性は成立しないと考えられた。これはCCR5阻害剤の作用発現に当たり、一部のCCR5をブロックすれば感染が阻害される可能性を示唆しており、CCR5阻害剤の作用機序の新たな知見として今後のCCR5阻害剤開発の一助となると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年の目標であった野生型・変異型CCR5共発現細胞を用いた感染実験と共発現細胞における変異型CCR5の割合の算定について予定通り実験を進めることができた。一方で変異型CXCR4発現細胞を用いた実験についてはやや停滞しているためおおむね順調な進展と判断した。
変異型CCR5の発現量の算定を引き続き行い、感染実験の結果と合わせて解析を進めていく。さらにこれらのデータをもとに数理モデルを作成し、HIV感染に必要なCCR5の数などを計算していく。またCCR5阻害剤の開発も行っていく。
予定していた人件費、学会旅費よりも少額で済んだことに加え、論文投稿のために想定していた経費も必要がなかったため次年度に繰り越すことにいたしました。
継続していく研究経費と併せて、今回の成果について学会発表、論文投稿を予定しており28年度に有効に使用したいと考えています。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Journal of Virology
巻: 90 ページ: 2180-94
10.1128/JVI.01829-15