本研究は分子生物学的手法によりHIV侵入過程におけるCCR5、CXCR4の動態の詳細な解明を試み、最終的にはそのデータをコンピュータモデリングに応用し、今後のケモカイン受容体阻害剤の開発につなげることを目標としている。我々が以前同定したHIV-1に対して被感染性を喪失するCCR5変異を含む複数の変異型CCR5発現ベクターを作成し、これをUM細胞に野生型CCR5とcotransfectionし、野生型/変異型CCR5共発現細胞を作成し、感染実験を行った。昨年までの結果で変異型CCR5が10%程度混入すると野生型CCR5のみを発現させた細胞に比べ被感染性が50%近く低下する傾向を認めていたが、さらに変異混入の割合を変化させ、被感染性の変化について調べた。その結果、変異が50%程度混入すると被感染性はほぼ喪失することがわかった。この結果は、HIV-1の感染成立に複数のCCR5が必要であることを強く示唆している。この変異混入の割合の変化と被感染性の変動について研究協力者(九州大学 岩見博士)に依頼し数理モデルを作成し、具体的にいくつのCCR5が感染に必要であるかという算出を行った。その結果、感染成立には6-8個のCCR5が必要である可能性が高いという結果が得られており、この結果はHIV感染の初期ステップにおけるCCR5の動態の一端を明らかにしたものである。また、感染成立に関係するCCR5の一部が機能を喪失すると細胞の被感染性が低下するという現象はCCR5阻害剤の強力な感染抑制のメカニズムのモデルにもなり得る。現在これらの結果を論文投稿準備中である。
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