研究課題/領域番号 |
26461522
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高野 亨子 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (70392420)
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研究分担者 |
古庄 知己 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 准教授 (90276311)
稲葉 雄二 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30334890)
涌井 敬子 信州大学, 学術研究院医学系, 講師 (50324249)
福嶋 義光 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (70273084)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 知的障害 / マイクロアレイ染色体検査 / 次世代シークエンサー / パネル解析 / 臨床エクソーム解析 |
研究実績の概要 |
知的障害(intellectual disability; ID)は知能指数(IQ)70 未満の状態であり、全人口の1~3%に認め非常に頻度の高い病態の一つであるが、その原因は約半数で不明と言われている。欧米ではID の原因検索としてマイクロアレイ染色体検査、全エクソーム解析を行い成果を上げているが、本邦ではまだ体制が整っていない。本研究はID に対する遺伝学的解析を体系化し、長野県におけるID 患者の病因および臨床像を明らかにすることを目的とする。 1.「ID 外来」: ID 患者に対する健康管理・療育的支援、原因検索、および遺伝カウンセリングを提供する包括的外来「ID 外来」は平成26年4月に信州大学医学部附属病院遺伝子診療部に開設され、この2年間で県内で広く周知されるようになった。当院および信州小児神経診療ネットワークを中心にID患者をリクルートし、研究代表者(小児神経専門医、臨床遺伝専門医)と認定遺伝カウンセラーで週1回診療を行っている。 2.ID原因検索における遺伝学的検査の体系化 (1)マイクロアレイ解析:第1次スクリーニング。(2)次世代シークエンス解析:第1次スクリーニング陰性患者に対し、第2次スクリーニングとして次世代シークエンサーIon PGMを用いたIDパネル解析を行っている。上記2検査陰性患者に対し、平成27年度後半から当施設で臨床エクソーム解析が可能となった。 3.成果:平成28年3月末までにID外来受診患者のうち73名の研究参加同意が得られた。第1次スクリーニングは73名(研究参加前に既にマイクロアレイ解析陰性であった患者39名を含む)で終了し、臨床的意義のあるゲノムコピー数変化を2名に認めた(2/34=5.9%)。第2次スクリーニングは65名で終了し5名に病的変異を認めた(5/65=7.7%)。またIDパネル解析で原因が判明した患者の症例報告を英文雑誌で発表した(Takano K, et al. 2016. Am J Med Genet A. 170:322-8.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.「ID外来」:「ID外来」について当施設小児科および信州小児神経診療ネットワークを通じて長野県内で周知されてきており、順調に紹介患者数を伸ばしている。本研究では合併症の有無を問わずID患者を広く対象とし、平成28年3月末までに73名の研究参加同意を得た。うち69名は長野県内の患者で、男40人、女33人、受診時平均年齢6.7歳であった。患者IQは軽度、中等度、重度、最重度それぞれほぼ同数であった。また合併症状として小奇形を半数以上、自閉スペクトラム症、低身長、低出生体重それぞれを約1/3の患者に認めた。 2.ID原因検索における遺伝学的検査の体系化:第1次スクリーニングのマイクロアレイ解析は計73名(研究参加前に既にマイクロアレイ解析陰性であった患者39名を含む)で解析が終了し、臨床的意義のあるゲノムコピー数変化を2名に認めた。2名の患者(9q34.3欠失症候群および17p13.3欠失症候群)の臨床症状は、既報告と合致していた。第2次スクリーニングは前年度設計したID関連既知遺伝子カスタムパネル(IDパネル:常染色体優性22、常染色体劣性6、X連鎖性21遺伝子を含む)を用い、次世代シークエンサーIon PGMで解析、データ処理(変異の絞り込み)を行い病的意義が疑われる変異について、サンガー法で変異の再確認を行い、可能であれば患者の両親解析を行い最終的に変異の意義を決定している。現時点で計65名で終了し5名に病的変異を認めた。これらの検査で原因が判明しなかった患者の一部に対し、3次検査として次世代シークエンサーMiSeqにて臨床エクソーム解析(TruSight One、約4800疾患関連遺伝子)を開始している。1および2の成果は平成27年小児神経学会、小児遺伝学会、米国人類遺伝学会、日本人類遺伝学会で発表した。またIDパネル解析でWDR45遺伝子変異が判明した患者の症例報告を英文雑誌で発表した(Takano K, et al. 2016. Am J Med Genet A. 170:322-8.)。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策 1.「ID外来」:引き続き研究分担者と協力し、信州小児神経診療ネットワーク、長野県小児科地方会などを通じて「ID外来」の普及に努める。個々の患者に対しては、マイクロアレイ解析や次世代シークエンス解析で得られた結果を患者の健康管理・療育的支援、原因検索、および遺伝カウンセリングに役立てていく。また、紹介元の医療機関に結果をフィードバックし日常診療にいかせるようにする。全体としては引き続き本研究参加患者の臨床症状(IQ、性別、家族歴の有無、神経学的合併症の有無、小奇形または大奇形合併の有無など)を蓄積し、遺伝学的検査結果(異常なし、あり)との関連を検討していく。 2.ID原因検索における遺伝学的検査 平成26年度に確立した第1次、第2次スクリーニングを継続していく。スクリーニング陽性患者については臨床像との相関を検討する。この数年で欧米のID研究は飛躍的に進み、新たなID原因遺伝子が多数発見された(Deciphering Developmental Disorders Study. Nature. 2015;519:223-8.)。それを踏まえ2次スクリーニングのIDパネル遺伝子の更新を考慮している。上記検査陰性患者に対し、3次検査として当施設で次世代シークエンサーMiSeqを用いた、臨床エクソーム解析(TruSight One、約4800遺伝子)をすすめていく。また、第1次、第2次スクリーニング陰性患者に対しては臨床的特徴を分析・蓄積し、共通する特徴を有する患者・家系を抽出し、連携研究者施設でトリオサンプルを用いた全エクソーム解析を考慮していく。本研究の結果は、平成28年4月の国際人類遺伝学会で発表し、今後、日本小児科学会、日本小児神経学会などで発表を予定している。また貴重な症例に関して、論文化も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンサー解析は16検体ずつ行うため、一部検体を平成28年度に解析することになった。それに伴い当初予定したよりも実験消耗品費の支出減額となったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度請求額と合わせ、実験消耗品費として使用すると共に、当初予定に組まれていなかった学会発表(日本小児科学会、日本小児遺伝学会)の国内旅費に充てる予定である。
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