研究課題
CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子治療に向けた基礎的研究として平成26年度はヒト細胞株であるHeLa細胞を用いて遺伝子編集を試みた結果、以下の2つの成果を得た。1. ヒトがん抑制遺伝子であり、母斑基底細胞癌症候群(NBCCS)の原因遺伝子でもあるPTCH1を標的とするガイドRNAをコードするCRISPR/Cas9を複数作製しそのうちの2種類を様々な組み合わせでHeLa細胞に遺伝子導入した。2種類の標的配列の距離は10.5kb、34.6kb、70.0kbであったが、そのいずれにおいても上記の長さのゲノム領域を欠失したホモ接合性のクローンを得ることができた。2. 一方、PTCH1遺伝子内のSNP部位でHeLa細胞でヘテロ接合性になっている部位の一方のアレルを標的とするCRISPR/Cas9を作製し、もう一方のアレルの配列を持つドナーDNAとともに遺伝子導入した。その結果ドナーDNAとしてPCR産物を用いると当該SNP部位をヘテロからホモ接合性に転換することができた。1の成果は、今後作製予定のNBCCS患者由来iPS細胞において、残っている正常アレルを確実にノックアウトし、PTCH1遺伝子が完全に破壊されたiPS細胞を作製する際応用可能である。このような細胞は免疫不全マウスに移植した際NBCCSで発症する腫瘍を再現できる可能性があり、薬剤スクリーニングに有用である。2の成果は、NBCCS患者由来iPS細胞において、変異アレルを正常アレルに転換させる際応用できる。このような正常遺伝子型に改変されたiPS細胞は新たなタイプの細胞治療につながると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
ヒト細胞株において当初予定していた遺伝子編集に成功したので、おおむね順調に進展していると判断した。また今後はNBCCS患者由来iPS細胞を作製し、遺伝子編集の実施に進む予定であるが、北里大学をはじめ、共同研究を行う2機関(千葉大学、国立成育医療研究センター)すべてでiPSを用いる研究の承認が得られたのも評価に加えた。
北里大学を含む3施設で倫理委員会の承認を得たことを受け、すでにNBCCS患者から繊維芽細胞を樹立してその一部でiPS化を開始しているところである。今後は複数の患者由来iPS細胞を樹立して、各々の遺伝子変異に応じたベクターを作製し、遺伝子編集を行う予定である。iPS細胞は必ずしも遺伝子導入の効率が高くない可能性もあり、その克服が課題となるかもしれない。
本年度予定していたiPS細胞の培養が一部来年度になったため次年度使用額が生じた。
来年度は作製したiPS細胞を用いて遺伝子編集作業に入る予定である。iPS細胞の培養には一般的ながん細胞株に比べて培養試薬が高額になると予想される。
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Pathology International
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10.1111/pin.12291
Pediatrics International
巻: 56 ページ: 667-674
10.1111/ped.12461
http://www.med.kitasato-u.ac.jp/~molgen/