ペルオキシソーム病の副腎白質ジストロフィーではABCD1遺伝子の変異に伴い極長鎖脂肪酸レベルが上昇する。発症機構の解明と発症のマーカーを探索する事を目的として、1解析系の構築、2リピドミクス解析、3ターゲット分子の存在様式と代謝系の解析、4発症マーカーの探索、の4つについて、申請時に記載したホスファチジルセリンに加え、より広範な脂質クラスについて実施した。 解析系の構築は、まず選択性と感度に優れるMRM定量解析を網羅的に行い、疾患に関連して変動するシグナルを明らかにして、次にプロダクトイオンパターンから構造解析した。リン脂質、リゾリン脂質、アシルCoA、糖脂質について定量解析系を構築した。構造解析では、スフィンゴミエリンについては、MS/MS/MSを用いた解析系を構築し、糖脂質に関しては高速液体クロマトグラフィーの新規分離系を開発した。 リピドミクス解析については、ABCD1ノックアウト(KO)マウスと正常マウス各6例の脳を用いて、各リン脂質クラスについて定量解析を行った。その結果、約500のシグナルのうち、KOマウスで選択的に増加しているシグナル数十個が検出され、主に極長鎖脂肪酸を含むホスファチジルコリンとホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン分子種であった。一方十数個の減少しているシグナルも検出され、主にホスファチジルセリンやホスファチジルイノシトールの分子種であった。患者サンプルに関しては、期間内には予備的な解析を実施するにとどまった。 ターゲット分子の代謝解析については、HeLa細胞をベースとしてABCD1の欠損細胞株を樹立した。本細胞株では、極長鎖脂肪酸含有リン脂質が増加していた。その合成酵素のSiRNA法を用いたスクリーニングを開始した。 発症マーカーの探索に関しては、患者サンプルを用いた解析が予備的な実施にとどまったため、今後の更なる検討が必要である。
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