研究課題/領域番号 |
26461548
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
犬童 康弘 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (40244131)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 先天性無痛無汗症 / 神経成長因子 / チロシンキナーゼ型神経成長因子受容体 / 痛み / 内感覚 / 交感神経 / 情動 / ソマティック・マーカー仮説 |
研究実績の概要 |
先天性無痛無汗症 (CIPA) は温覚・痛覚の欠如と発汗障害に加えて、精神遅滞や多動傾向などの中枢神経症状を伴う常染色体劣性遺伝疾患である。その原因は、神経成長因子(NGF)に対するチロシンキナーゼ型受容体TrkAをコードするNTRK1遺伝子の機能喪失性変異である。患者ではNGF―TrkAシステムが正常に機能しない。その結果として、NGF依存性ニューロンが欠損することになる。患者でみられる温覚・痛覚の欠如と発汗障害は、末梢神経のNGF依存性ニューロンが特異的に欠損することによる。 Allen Human Brain Atlasに公開されているデータベースをもとに、NTRK1遺伝子の発現が比較的多いと推定される健常者の脳領域をしぼりこむことで、これらの中枢神経部位と末梢神経系のNGF依存性ニューロンが関与すると考えられる神経ネットワークの関係について検討し、情動と感情のメカニズムの関連について考察した。 国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain: IASP)は、「痛みは不快な感覚・情動体験である」と定義している。このことから痛みはヒトの心的活動と密接に関連していることが分かる。また、DamasioとCarvalhoは、「情動と感情」を神経生物学的に定義することを提唱している(Nat Rev Neurosci, 2013)。これによると、「情動と感情」は脳と身体の相互作用に依存する。この相互作用には、脳と(神経系以外の)身体をつなぐ神経メカニズムが必要である。本研究により、末梢神経のNGF依存性ニューロンが脳と身体の相互作用に介在し、「情動と感情」の神経生物学的基盤となることが示唆された。本年度は、研究結果をIASPが主催する第16回 World Congress on Painにおいて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年4月に起きた熊本震災により、研究室が被害を受けたため研究の遂行に遅延が生じた。 Allen Human Brain Atlasに公開されているデータベースをもとに、NTRK1遺伝子の発現が比較的多いと推定される健常者の脳領域をしぼりこむことで、これらの中枢神経部位と末梢神経系のNGF依存性ニューロンが関与すると考えられる神経ネットワークの関係について考察した。また、これらのニューロンと情動と感情のメカニズムの関連について学会発表し討議した。
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今後の研究の推進方策 |
CIPA患者では、末梢神経系に加えて脳に局在するNGF依存性ニューロンが欠損していることが推定される。しかし、患者の脳を調べることは、技術的な問題に加えて倫理的な問題もあり困難である。 これまでの研究により、末梢神経系のNGF依存性ニューロンは、生体の恒常性維持に必要不可欠なはたらきをすることが明らかになった。また、心的活動である「情動と感情」の神経メカニズムのも寄与することが示唆された。一方、Allen Human Brain Atlasとして公開されている健常者の脳全部位についての包括的な遺伝子発現データベースをもとに、NTRK1遺伝子が発現している脳の領域を探索した。これらの脳領域についても、先行研究の結果をもとに、生体の恒常性維持や「情動と感情」の神経生物学的基盤に関与する可能性が推定される。 今後、その領域にどのようなニューロンがあり、またどのような領域とつながっているかを検討する。得られたデータとこれまで蓄積されたCIPA患者の神経学的症状や行動についての解析結果を対比することで、NTRK1遺伝子を発現しているニューロンの機能とこれらが関連する神経ネットワークを明らかにすることを目標にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年4月に起きた熊本震災により、研究室が被害を受けたため研究の遂行に遅延が生じた。このため、進展状況に合わせて、本年度に予定していた物品の購入等を次年度に行うことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進展状況に合わせて、予定していた物品の購入等を次年度に行う。
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