研究実績の概要 |
これまで我々は内匠らによって作成されたヒトにおける自閉症の原因の1つとされる15番染色体の部分重複をマウスで再現させた自閉症のモデルマウス(以下15q dupマウス、Nakatani et. al., Cell 2009)を用い、自閉症スペクトラム障害(ASD)に特徴的な症状である「社会性の欠如」や「物事へのこだわり」等、共通した表現型の分子基盤を解明し、その知見に基づいた症状の改善方法について検討を行ってきた。 15q dupマウスの脳内セロトニン(5-HT)量が出生直後から低下していること(Tamada et.al., Plos One 2010)を端緒に、生後3週間に及ぶ選択的5-HT再取込み阻害薬のフルオキセチン(FLX)処理を行うと、成長後、社会性の低下と5-HT濃度が改善することを見いだした。一方で「こだわり行動(水迷路で観察)」、「繰り返し行動(Rotarodで観察)」は改善しなかった。 社会性の改善については生後1週目から3週目までの5-HT1A受容体アゴニストである8OH-DPATの投与でも再現されたことから、FLXの効果は増加した5-HTによる1A受容体刺激が関与することが示唆された一方、8OH-DPATによる社会性の改善はオキシトシン(OXY)受容体のアンタゴニストL-368,899の同時投与によりキャンセルされた。それを踏まえ、今年度は同時期にOXYのみを投与すると、社会性の改善が再現された。生後一定期間のオキシトシン受容体の刺激が15q dupマウスの社会性改善に重要であることが示唆された。 電気生理学的解析では、背側縫線核の5-HT細胞において15q dupマウスで深い静止膜電位を示し、興奮性グルタミン酸神経の入力が少ないことが判明し、どちらも上記FLX処理で改善することを見いだした。 現在、これらの知見について論文にまとめ投稿し、受理された(Science Advances, in press)。
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