研究課題/領域番号 |
26461556
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
佐久間 啓 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 主席研究員 (50425683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミクログリア / 前駆細胞 |
研究実績の概要 |
ミクログリアは発生学的に他のマクロファージとは異なり,造血幹細胞由来ではなく胎生期の卵黄嚢に出現するマクロファージ前駆細胞に由来する.さらに生後も生理的な条件化では骨髄由来の細胞がミクログリアに分化することはないとされている.このため生後の脳においてミクログリアがどのように維持・供給されるのかという新たな疑問が生じている. マウス新生仔脳より作成した混合グリア培養からミクログリアを除去してアストロサイト培養を作成する際,除去されたはずのミクログリアが時間とともに再び増加する.我々はこれが生後脳におけるミクログリアの補完性増殖と共通する現象ではないかと考え,ミクログリア増殖の過程をin vitroで追跡するという実験系を考案した. 混合グリア培養から抗CD11b抗体結合磁気ビーズを用いてミクログリアを除去した.この細胞を再び培養し,細胞の組成並びに性質を経時的に観察した. CD11bビーズ処理により残存するCD11b細胞の割合は除去前の15~20%から0.2%に減少した.その後day 3ではCD11b+細胞の割合に変化は見られないが,day 7には2~3%,day 14には7~9%へと増加し,day 21になる25~30%と急激に増加して元の割合を超えた.これらの細胞におけるCD11b, CD45分子の発現を見ると,day 3~7に出現する細胞では混合グリア培養中のミクログリアと比較して明らかに低く,割合が増加するにつれてCD11b, CD45の発現が高い細胞が増える傾向が見られた. 以上より,ミクログリアは残存量0.2%まで除去しても活発な増殖により3週間余りで元の割合まで回復することが明らかとなった.また増殖過程のミクログリアは成熟したミクログリアとは異なる性質を持ち,これらの細胞は成熟したミクログリアの分裂ではなく,何らかの異なる性質の細胞に由来する可能性を示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
混合ミクログリア培養からCD11b陽性細胞を除去するin vitroの系を用いてミクログリア再増殖の過程を明らかにすることができた.この実験系はミクログリアの前駆細胞が存在するとすればその分化過程を追跡できる系として有用と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はミクログリアの増殖過程をさらに詳細に解析し,特に増殖初期の細胞に注目することで,存在を仮定しているミクログリア前駆細胞の性質を解明する手がかりとなることが期待される.また未熟なミクログリアのマーカーを探索することも重要な作業であり,免疫細胞化学法やフローサイトメトリー法による表面マーカーの解析に重点を置く.さらにこれらの細胞の増殖を促す液性・日液性因子の解析にも力を入れる. これらと平行して骨髄未分化細胞とアストロサイトの共培養によるミクログリア分化誘導の研究を進め,両者を比較しながら造血幹細胞からミクログリアを分化誘導する有効な方法を探求する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は比較的単純な実験系を使用した実験が中心であったため,予定より大幅に少ない物品費で研究を実行することができた.また予定していた国際学会での発表を取りやめたため旅費の支出もなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は各種の網羅的解析を実施するために今年度と比べ物品費の大幅な増額が予想される.また今年度行えなかった国際学会での成果発表も予定している.
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