研究課題/領域番号 |
26461557
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
西崎 有利子 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 周生期学部, 研究員 (90378901)
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研究分担者 |
東 雄二郎 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 周生期学部, 部長 (30181069)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Sip1 / モワット・ウィルソン症候群 / セロトニン / 縫線核 |
研究実績の概要 |
本年度は、縫線核におけるSip1の役割を明らかにする目的で、まず、縫線核特異的Sip1コンディショナルノックアウトマウス(cKO)を作成した。Pet-1エンハンサーの制御下でCreリコンビナーゼを縫線核特異的に発現させるePet-Creマウスを用いて、縫線核特異的にSip1を欠失させたマウスを得た。得られた同腹仔の脳の矢状断切片をセロトニン抗体で染色した。その結果、Sip1cKOの脳では、セロトニン含有繊維の数や密度が、同腹仔の対照脳と比較して少ない傾向が見られた。さらに詳細な解析のために、Sip1ヘテロ変異マウスから採取した縫腺核周辺細胞を初代培養し、セロトニン神経及びドーパミン神経について、それぞれ、セロトニン抗体、チロシン水酸化酵素抗体で染色して解析を行った。その結果、同腹仔の対照脳と比較して、Sip1ヘテロ脳由来のドーパミン神経細胞の数、セロトニン神経繊維の数が有意に減少していることが明らかになった。セロトニン神経数や繊維の長さについても減少傾向が見られた。また、縫線核周辺から採取した細胞に、Sip1-siRNAを発現させるプラスミドをエレクトロポレーションにて導入し、Sip1のノックダウンを行ったところ、ニューロフィラメント抗体で染色される細胞の割合や、神経特異的チューブリンTuj1抗体陽性の突起を伸長する細胞の割合が減少した。 これらの結果から、Sip1遺伝子は、縫線核細胞の神経突起伸長に重要な役割を担っていることが明らかになった。今後、更なる分子機構の解明が必要であるが、この結果は、モワット・ウィルソン症候群(MOWS)の原因遺伝子であるSip1の新たな機能を明らかにするものであり、MOWSの病態の解明のみならず、セロトニン神経を原因とする疾患についても新たな治療ターゲットの解明につながることも期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sip1のセロトニン神経の形成における役割についてはこれまで未知であったが、今回の解析により、セロトニン神経繊維の伸長に重要な役割を担うことが明らかになった。神経繊維の定量的な解析は、病理学的な解析よりも、細胞生物学的な解析を行ったほうが効果的であるため、当初2年目以降に予定していたin vitroの解析を1年目に行い、定量的なデータを得ることができた。今回得られた結果について、今後、更に分子機構を明らかにしていく必要があるが、初年度としては概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Sip1遺伝子のノックアウト、ノックダウンによって、セロトニン神経繊維の伸長が抑制されるという結果が得られたことから、その分子メカニズムについてさらに明らかにする。具体的には、Sip1と結合するBMPシグナリングのトランスデューサーであるSmadについて、Sip1の有無によって、リン酸化や細胞内局在の変化などが見られるかどうかを解析する。また、Sip1は、転写制御因子であることから、Sip1の欠失によって、どのような遺伝子の発現に変化がもたらされることにより、このような表現型が見られるのか、Sip1ノックアウトマウスで発現が上昇あるいは低下している遺伝子を探索し、明らかにする。さらに、このようなセロトニン神経繊維の異常が見られる場合、個体の行動にどのような影響を及ぼすのかを、縫線核特異的なSip1コンディショナルノックアウトマウスを用いて解析する。特に、縫線核セロトニン神経が関与すると予測される、情動、摂食、飲水、睡眠などについて行動解析を行う。新規探索行動についてはオープンフィールド、運動機能についてはローターロッド、不安行動については高架十字迷路試験、うつ傾向の有無については尾懸垂テスト、社会性等については3-chamber testを行う。これらの解析により、脳内の分子とその動態制御、縫線核を構成する神経群の形態と機能の異常がどのような行動に結びつくのかを明らかにする。そこから得られる結果を通して、モワット・ウィルソン症候群の病因病態及び、縫線核セロトニン神経を原因とする神経疾患に役立つ知見を得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、神経繊維の定量的なデータを取る必要が生じたため、当初予定していた病理学的解析の詳細は次年度以降に行い、翌年度以降に予定していたin vitroの解析を優先させた。そのため、病理学的解析に使用するノックアウトマウスの繁殖・維持等の費用が本年度は抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、コンディショナルノックアウトマウスの病理学的解析及び、行動解析を行う予定であるため、ノックアウトマウスの繁殖・維持のために必要な餌と床敷き代約50千円が必要となると予定している。本年度の未使用分から支出する。
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