カルシウム(Ca)の吸収機構に概日リズム依存性の制御機構が存在するかどうか検討した。腸管特異的に時計遺伝子であるBmal1を欠損させたマウス(CKO)を作出し検討したところ、CKOマウスではビタミンD受容体(VDR)の標的で、Ca能動輸送に関わる遺伝子群(Trpv6、CalbindinD9kなど)のリズム性発現が消失しており、その結果十二指腸におけるCa能動輸送が低下していた。分子機序としては、時計遺伝子であるClockはVDRと結合し、VDRの転写活性を促進することで、その標的遺伝子の発現を増加させていた。そして、Bmal1非存在下ではClockそのものが核内へと移行できないため、ClockによるVDR転写増強作用が消失していた。CKOマウスでは、尿中Ca排泄の低下、活性型ビタミンDの上昇、そしてPTH・骨吸収マーカーの増加を認めた。これらの代償性機構により、血液中Ca濃度は維持されていた。CKOでは、破骨細胞数の増加とともに海綿骨量の減少を認め、高Ca食によりレスキューされた。さらに、CKOマウスでは交感神経が亢進しており、迷走神経の切除により交感神経の活性化は解除された。そして、βブロッカーの投与によりCKOマウスの骨量減少は部分的には解除された。以上から、腸管生物時計の破綻は、1)Ca吸収低下に対する代償性骨吸収亢進、2)求心性迷走神経を介した交感神経系活性化による骨形成抑制、により骨量を減少させると考えられた。これらの結果は、骨・Ca代謝恒常性維持機構における生物時計の重要性を示唆していると考えられる。
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