研究課題
ダウン症候群関連急性リンパ性白血病(DS-ALL)は、高2倍体やt(12;21)などの予後良好な染色体異常の頻度が低く、予後不良であることが知られている。また、ダウン症候群の患者は抗癌剤に対する認容性が低く治療関連死の割合が高いため、分子標的治療のような毒性の低い治療が求められている。DS-ALLにおける遺伝子異常は長らく不明であったが、最近欧米のグループからDS-ALLの約20%でJAK2遺伝子の活性化変異、約60%でCRLF2遺伝子の高発現がみられることが報告された。しかし、本邦のDS-ALLでは上記の異常の頻度はそれぞれ16%、33%であり、欧米よりも頻度が低いことが明らかとなった。CRLF2-JAK経路以外の遺伝子異常を明らかにするために、この経路に異常を認めない5例についてRNAシークエンスを行ったところ、4例で受容体型チロシンキナーゼ(RTK)-RAS経路の遺伝子変異(FLT3 1例、NRAS 1例、PTPN11 2例)が認められた。また、1例でエピゲノム制御因子(MLL2)の変異が認められた。RTK-RAS経路とエピゲノム制御因子は分子標的治療の有力な標的であることから、これらに絞って遺伝子解析を行う方針とした。また、ダウン症候群関連急性骨髄性白血病(DS-AML)で高頻度に変異が認められるコヒーシン複合体の遺伝子変異についても併せて解析することとした。本年度は、これらの遺伝子群から32遺伝子を選択し、イルミナ社のHaloPlexターゲットエンリッチメントシステムとMiSeqを用いたターゲットシークエンスの方法を構築した。JAK2変異のある3例とRTK-RAS経路の遺伝子変異のある3例について解析したところ、正確に変異アリルの頻度を同定することが可能であった。また、マイナークローンに由来すると思われる低頻度の変異も検出可能であった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、本邦のDS-ALLの診断時骨髄を用いてRTK-RAS経路の遺伝子変異の解析を開始した。ダイレクトシークエンス法による解析を予定していたが、数十種類の遺伝子を一度に解析でき、正確に変異アリルの頻度を決定でき、さらに低頻度の変異も検出できるイルミナ社のHaloPlexターゲットエンリッチメントシステムとMiSeqを用いたターゲットシークエンス法を採用した。RTK-RAS経路以外の解析対象遺伝子としては、分子標的治療の標的となりうるエピゲノム制御因子と、DS-AMLで高頻度に変異が認められるコヒーシン複合体をコードする遺伝子群を選択し、合計32遺伝子について一度に解析する方法を構築した。JAK2変異のある3例とRTK-RAS経路の遺伝子変異のある3例について解析したところ、正確に変異アリルの頻度を同定することが可能であった。また、マイナークローンに由来すると思われる低頻度の変異も検出可能であった。
次年度は、本邦のDS-ALL約30例の診断時骨髄を用いて、RTK-RAS経路、エピゲノム制御因子、コヒーシン複合体に関連する32遺伝子の変異についてターゲットシークエンス法にて解析する予定である。さらに、これらの変異と予後を含めた臨床像との関連については欧米においても十分に解明されていないため、この点についても解析を行いたい。また、DS-ALLから樹立された細胞株と、後天性のトリソミー21とCRLF2異常、JAK2変異を持つ細胞株についても、上記の32遺伝子の変異をターゲットシークエンス法にて解析する。さらに、分子標的治療の有効性をin vitroで証明するために、これらの細胞株にRAS阻害薬、PI3K阻害薬、JAK阻害薬、エピジェネティック治療薬を添加して、細胞増殖、アポトーシス、細胞内シグナル伝達経路の活性化、遺伝子発現に対する影響を解析する予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Genes, Chromosomes & Cancer
巻: 53 ページ: 902-910
10.1002/gcc.22201