研究課題
小児期に発症する小型・正常大の血小板を伴う遺伝性血小板減少症は、免疫性血小板減少症(Immune thrombocytopenia:ITP)との鑑別に重要な疾患である。昨年度は、本邦における遺伝性血小板減少症症例の蓄積とその臨床的および遺伝学的解析を行った。今年度は、これらの蓄積症例約30症例の解析結果をもとに、本邦における既知遺伝子変異を伴う遺伝性血小板減少症症例の遺伝子変異、臨床像の特徴、診断のバイオマーカーを解析し、Pediatr Blood Cancerに英文論文として報告した。また、各種学会報告を行い社会に発信した。次に、既知の遺伝子に変異を認めない症例から、エクソーム解析により新規原因遺伝子EVI-1の変異例を発見し、その臨床的および遺伝学的解析を行った。橈骨尺骨癒合を伴う遺伝性血小板減少症の原因遺伝子としては、これまでHOXA11遺伝子が知られていたが、HOXA11遺伝子変異を認めない橈骨尺骨癒合を伴う遺伝子血小板減少症の本邦3症例において、EVI-1遺伝子の同じドメインにヘテロのミスセンス変異を同定した。機能的解析から、この変異によりEVI-1遺伝子による転写活性が有意に変化すること、AP-1およびTGF-beta関連の転写調節に異常をきたすことを報告した。EVI-1遺伝子変異による遺伝性血小板減少症の発見は世界的にも先駆的であり、Am J Hum Genetに報告済である。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度の解析結果を論文報告したこと、および既知の遺伝子に変異を認めない症例から、エクソーム解析により新規原因遺伝子EVI-1の変異例を発見し、その臨床的および遺伝学的解析結果をインパクトファクター10以上の科学誌に報告した。当初の計画である既知遺伝子に変異のない症例検体から得られた結果であり、その成果は論文受理や学会でのPlenary sessionに採択されるなどの成果が得られているため。
既知遺伝子に変異を認めない症例検体を20例以上蓄積しており、今後はこの検体を用いたエクソーム解析およびアレイCGH解析を、研究計画に従って遂行する予定である。新規原因遺伝子候補が同定された場合は、その分子病態解析を行って新しい病型概念を構築することを目標とする。
研究成果はおおむね目標に達しているものの、研究遂行に必要な物品費や旅費は他の研究資金から充当することができ、当該助成金からの支出割合が少なくなったため。
次年度の物品費としてエクソーム解析などの費用の増加が見込まれるため、これに使用する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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