研究課題/領域番号 |
26461568
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
土田 里香 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 非常勤講師 (60571388)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 癌微小環境 / 血管新生 / 骨形成因子 / 固形腫瘍 / 小児がん / 神経芽細胞腫 |
研究実績の概要 |
これまで私は、生物の発生の極初期から機能する血管新生シグナルが、固形腫瘍における癌幹細胞の悪性化に深く関わっていることを報告し、抗腫瘍血管新生薬の臨床応用を目指して成果を重ねてきました。それは、癌細胞は正常(あるいは炎症等、少なくとも癌ではない)組織の中に存在し、周囲の微小環境と応答しながら悪性化していくという観点からの研究でした。この概念の下、癌微小環境の主たる制御機構が血管新生シグナルであり、多くの固形腫瘍において、血管新生を阻害する治療法は、動物実験レベルで有意差をもって効果があることが分かりました。しかしながら、本研究を進めて行く中で、神経芽細胞腫だけは、他の固形腫瘍とは違うメカニズムで、抗腫瘍血管新生薬に対して腫瘍抑制効果を示すことも分かってきました。 私は、小児の固形癌として頻度の高い神経芽細胞腫に焦点を当て、平成27年度は更に、ヒト神経芽細胞腫の細胞株の種類を増やし、また、移植するマウスの種類を変えるなどし、マウスに移植したヒトの神経芽細胞腫が血管新生抑制に関わる因子の投与により、ほぼ完全に消失することの再現性を確認しました。血管新生シグナル関連分子投与群で非常に明瞭な腫瘍退縮をもたらすため、担癌マウスから残存組織の採取が困難となり、解析が難しかった問題を解決するために、昨年度は、血管新生シグナル関連分子を作用させた神経芽細胞腫の細胞を早い段階で回収し、RNA発現の網羅的な解析を行いました。その結果、非常に興味深い物質(X)との関連性が見えてきました。その物質Xは、現在も安価に販売されている薬剤であり、膠原病の一部において治験が進められているものでもあります。これを記載している現段階で、物質Xが広くヒト神経芽細胞腫の腫瘍増殖を容量依存的に抑制することを確認しています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経芽細胞腫の腫瘍抑制に関わる新しいメカニズムを、RNAの網羅的解析によって進展させることが出来たので、かなりの成果を上げているといえるが、研究だけに充てる時間が非常に短く限られているため、もう少し成果を急ぎたいという気持ちが強い。そのため全体的な区分としておおむね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
RNA発現の網羅的解析の結果見つけられた、広範なヒト神経芽細胞腫に腫瘍抑制効果をもたらす物質Xについて、その作用点、すなわち、神経芽細胞腫細胞のどの部分に作用し、どのようなメカニズムを経て、最終的に腫瘍の増殖や進展を抑制するのかについて、追跡を続けていきます。同時に、最終的な臨床応用を念頭に置き、物質Xと抗腫瘍血管抑制薬との相違点(作用機序や副反応)についても確認していきたい。 他の固形腫瘍に比べ、遺伝子の変異率が低いと言われている神経芽細胞腫においては、細胞の分化や、発生の仕組みを考慮しながらの解析が欠かせないと思っています。神経芽細胞腫の細胞生物学的な特性を常に意識しつつ、この研究課題を、国内・海外の共同研究者と共に、今年度も進めて行きたいと思っております。
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