研究課題
血管新生シグナルは文字通り血管新生に関わるのみならず、固形腫瘍における癌幹細胞の悪性化に深く関わっていることを報告して以来、癌を取り巻く微小環境で作用するシグナル伝達経路の働きを解明することで、最終的に固形腫瘍の縮小(或いは癌細胞増殖の停止)を目指した治療の開発を目標に本研究を継続させている。更に私は、腫瘍血管内皮細胞の増殖を阻害し、固形腫瘍の増殖の抑制に関わる新しいシグナル(骨形成因子が関与する経路)を報告した。更に、この骨形成因子が関わるシグナル経路は、神経芽細胞腫に対しては、他の固形腫瘍とは違うメカニズムで腫瘍抑制効果を来すことが分かった。昨年度までに、ヒト神経芽細胞腫の細胞株の種類を増やし、マウスに移植した後、骨形成因子を作用させることにより、ほぼ完全に移植腫瘍が消失する再現性を確認した。骨形成因子を作用させた神経芽細胞腫の細胞株を早い段階で回収し、RNA発現の網羅的な解析を行った結果、骨形成因子の刺激と同じ作用を持つ化合物が2つ見つかった。そのうちの一つ(X)は、骨形成因子よりも安価であり、一部の膠原病で治験が行われている物質であったため、今後の臨床応用がスムーズに進む可能性を考え、化合物Xによる神経芽細胞腫の腫瘍抑制効果をin vitro, in vivo両面で検討した。その結果、in vitroでは、ヒト神経芽細胞腫の腫瘍増殖を容量依存的に抑制することが確認されたが、動物実験では薬剤コントロール実験の段階で投与量の調整が非常に困難であり、安全な臨床応用は難しいとの判断で現在は中断している。他方、RNA網羅的解析の結果から分析した骨形成因子の下流の遺伝子の動きを解析し作用機序の解明に取り組んでいる。血管新生抑制剤の耐性の問題をクリアするためにも、詳細な機能解析は喫緊の課題と考え研究に取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
実験に割ける時間が非常に限られた中にあるが、モチベーションを保ちながら少しずつ新しい結果を積み上げてきており、おおむね順調に進んでいると考えている。
RNA網羅的解析の結果から、骨形成因子を作用させた際に発現の変動が大きい遺伝子について解析を進め、骨形成因子に関わるシグナル経路が、どのようなメカニズムで神経芽細胞腫の腫瘍抑制効果を発揮するのかについて検証し、成果を発表したい。
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American Association for Cancer Research
巻: 76(14) ページ: 4324
10.1158/1538-7445.AM2016-4324 Published July 2016