研究課題
成長期にある小児の固形腫瘍の治療は、周囲の臓器に傷害をあたえることなく、更には、体内に残存腫瘍を認めない(再発しない)腫瘍抑制効果をもたらす事が理想である。神経芽細胞腫は小児の固形腫瘍として頻度が高い。私どものこれまでの研究成果から、血管新生抑制に関わる因子;BMP4が神経芽細胞腫の極めて有効な治療薬になるのではないかという可能性を見出した。平成29年度はヒト神経芽細胞腫の細胞株の種類を増やし、BMP4による腫瘍抑制効果を確認した。またマウスに移植したヒト神経芽細胞腫がBMP4の投与により、ほぼ完全に消失することの再現性も確認できた。これまで、BMP4投与群で非常に明瞭な腫瘍退縮が認められたため、担癌マウスから残存組織の採取が困難であることから、BMP4を作用させた神経芽細胞腫の細胞を用いてRNA発現の網羅的な解析を行った。その結果、発現の変動がみられた遺伝子が神経芽細胞腫の腫瘍抑制にどのように関与しているかの解析を進めている。BMPはTGF-βスーパーファミリーに属し、骨組織の形成に関わるだけではなく、生物の発生初期の形態形成にも関わる重要な因子である。本課題で取り組んでいるBMP4も骨形成因子の一つであるが、これまで私が報告してきた通り、固形腫瘍の腫瘍血管新生を阻害して腫瘍の増殖を抑制することが分かっている(R.Tsuchida et al. Oncogene, 2014)。またBMP4は新生血管にのみ親和性が高く、周囲の既存の血管についての副作用はほとんど認められないことも報告した。さまざまな固形腫瘍の中でも、神経芽細胞腫に関しては、癌細胞そのものにBMP4が作用し増殖抑制効果を示していることが分かった。神経芽細胞腫の腫瘍抑制効果が動物実験上では顕著であるが、BMPには多様なサブグループが存在するため、詳細なメカニズムの解明を慎重に進める必要がある。
2: おおむね順調に進展している
臨床業務が増え、本課題代表として研究に充てる時間が少なくなっているが、実験結果は明瞭で、臨床応用の期待も大きいとして、ご協力いただける先生方もあり、少しずつでも確実に進んでいます。
RNA発現の網羅的な解析の結果を踏まえ、変動がみられた遺伝子がどのように腫瘍抑制に関与しているのか、タンパク質レベルの発現についても結果を出している。BMP4を神経芽細胞腫にin vitroで作用させても、細胞周期や、アポトーシス誘導には関与しないという結果が現在出ているが、その再確認が必要である。一方で、BMP4を作用させることにより、神経芽細胞腫で発現している、癌幹細胞に関与する遺伝子の発現が抑えれることが見つかり、これがBMP4の神経芽細胞腫における腫瘍抑制効果の中心的なメカニズムである可能性がある。この実験結果についてさらに解析を進めているところである。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
J Natl Cancer Inst.
巻: 109(11) ページ: 1-12
10.1093/jnci/djx062.